第十七章 最初の男
夜の空気が固まる。
杉本の言葉が。
その場の全員を止めていた。
「死体で見つかった」
真田は聞き返す。
「誰が」
杉本は言った。
「最初の男だ」
橋の下に沈黙が落ちる。
佐伯が眉をひそめた。
「最初?」
大谷も言う。
「俺たちより前?」
杉本は頷いた。
「三年前」
「お前たちより少し前に」
「同じ女と会った男がいる」
真田の背筋が冷たくなる。
「……ミカと?」
杉本は言う。
「そうだ」
久保田が呟く。
「知らなかった」
杉本はミカを見る。
「説明しろ」
ミカは少し黙った。
そして言った。
「知ってた」
杉本の目が鋭くなる。
「死んだことを?」
ミカは小さく頷いた。
真田の声が震える。
「どういうことですか」
ミカは静かに言う。
「失敗」
その言葉。
誰も理解できない。
杉本が聞く。
「何の」
ミカは答えた。
「最初の人」
川の音が大きく聞こえる。
杉本は言う。
「名前は?」
「長谷川」
四十代。
会社員。
三年前。
突然失踪。
そして。
今日。
山中で白骨死体として発見された。
杉本は言った。
「検視では」
少し言葉を選ぶ。
「自殺の可能性が高い」
真田の心臓が強く打つ。
佐伯が言う。
「自殺?」
大谷も言う。
「そんな話……」
ミカは言った。
「質問した」
全員がミカを見る。
ミカは続ける。
「今の人生」
「続けたい?」
杉本は聞く。
「答えは」
ミカは少しだけ目を閉じた。
そして言った。
「わからない」
真田の背中に寒気が走る。
ミカは続ける。
「だから」
「帰した」
杉本は眉をひそめる。
「それだけか」
ミカは頷く。
「うん」
「それだけ」
沈黙。
真田は聞く。
「それで死んだ?」
ミカは首を振る。
「知らない」
杉本が言う。
「本当に?」
ミカは答えた。
「本当に」
杉本はしばらくミカを見ていた。
そして。
小さく息を吐いた。
「なるほどな」
真田が聞く。
「何が」
杉本は言った。
「だから五人なんだ」
真田は理解できない。
「どういう意味です」
杉本は言う。
「最初の男」
「長谷川」
「それが一人目」
佐伯が呟く。
「じゃあ……」
杉本は指を折る。
長谷川。
佐伯。
大谷。
久保田。
そして。
真田。
「五人」
真田の体が固まる。
ミカは静かに言った。
「そう」
杉本が聞く。
「成功率か」
ミカは少し笑った。
「そんな感じ」
真田の声が震える。
「成功って何ですか」
ミカは答えた。
「生き直すこと」
杉本は腕を組む。
「一人失敗」
「四人成功」
「だから」
「五人で終わり」
ミカは頷く。
「うん」
佐伯が言う。
「統計かよ」
ミカは笑う。
「そうかも」
真田はまだ理解できない。
「じゃあ」
「俺は?」
ミカは言った。
「まだ途中」
そのとき。
杉本のスマートフォンがまた鳴る。
杉本は出る。
数秒。
そして。
顔色が変わる。
「……なんだと?」
真田が聞く。
「どうしたんです」
杉本はゆっくり電話を切った。
そして。
全員を見る。
「おかしい」
真田が言う。
「何が」
杉本は答えた。
「死体」
全員が黙る。
杉本は続ける。
「長谷川じゃない」
真田の心臓が跳ねた。
「え?」
杉本は言う。
「DNAが違う」
川の音。
風。
そして。
ミカの目が。
ゆっくり見開かれた。
杉本が言う。
「長谷川はまだ生きてる可能性がある」
その瞬間。
ミカが初めて。
本気で動揺した。




