第十四章 二人目
街灯の下から。
もう一人の男が歩いてくる。
ゆっくり。
落ち着いた足取り。
杉本はその顔を見て呟いた。
「大谷……」
二人目の失踪者。
三年前。
突然仕事を辞め。
部屋を引き払い。
行方不明になった男。
その本人が。
普通に歩いてくる。
大谷は三人を見ると少し驚いた顔をした。
「……刑事さん?」
杉本は唖然としていた。
「お前も……」
大谷は笑う。
「久しぶりですね」
真田は信じられなかった。
三年。
行方不明。
全国手配一歩手前。
その男が。
普通に会話している。
大谷はミカを見る。
「呼ばれたから来た」
ミカは頷いた。
「ありがとう」
大谷はベンチに座った。
そして言う。
「この人たち?」
ミカは答える。
「四人目」
そして杉本を見る。
「迷ってる人」
大谷は杉本を見た。
少し考える。
それから言った。
「やめたいんですか」
杉本は苛立つ。
「簡単に言うな」
大谷は笑った。
「簡単じゃないですよ」
少し間を置く。
「でもできます」
杉本は聞く。
「お前は何してる」
大谷は答えた。
「船」
真田は聞き返す。
「船?」
大谷は頷く。
「漁船」
「今は北海道」
杉本は驚く。
「北海道?」
大谷は笑う。
「寒いですよ」
「でも」
少し空を見る。
「自由です」
真田は思わず聞く。
「後悔は」
大谷は即答した。
「ない」
杉本は黙る。
ミカは静かに言った。
「三人とも同じ」
真田は聞く。
「三人目は?」
ミカは答える。
「南」
真田は眉をひそめる。
「南?」
ミカは言う。
「島」
「ダイビング」
久保田のことだ。
杉本は呟く。
「バカみたいな話だ」
大谷は笑う。
「そうですね」
「三年前の俺もそう思ってました」
杉本は聞く。
「何が変わった」
大谷は言う。
「覚悟」
杉本は苛立つ。
「それだけか」
大谷は頷く。
「それだけ」
少し間を置く。
「でもそれが一番難しい」
夜の風が吹く。
川の水の音。
遠くの車の音。
ミカはベンチのコインを見る。
500円玉。
それを指で回す。
カラン。
小さな音。
そして言った。
「あと二人」
真田が聞く。
「五人までって言ってましたね」
ミカは頷く。
「うん」
「あと二人」
杉本は聞く。
「なんで五人なんだ」
ミカは少し考える。
そして言った。
「多すぎるとダメだから」
真田は理解できない。
「何が」
ミカは言う。
「本気の人」
杉本は苛立つ。
「意味がわからん」
ミカは少し笑う。
「多いと」
「流行になる」
「流行だと」
少し間。
「本気じゃなくなる」
真田の背中に寒気が走る。
ミカは言った。
「だから五人」
「それ以上はやらない」
杉本は聞く。
「お前は何なんだ」
ミカは少し空を見る。
星が出始めていた。
そして言った。
「きっかけ」
杉本は笑う。
「安いきっかけだな」
ミカは頷く。
「うん」
そして。
「五百円だからね」
そのとき。
遠くから足音が聞こえた。
三人が振り向く。
橋の下の道。
暗闇の中から。
もう一人の影が現れる。
真田の心臓が強く打つ。
「あれは……」
ミカは小さく言った。
「三人目」
その男は近づいてくる。
街灯の光の中に入る。
その顔を見た瞬間。
真田は息を止めた。
久保田だった。
そして。
久保田の後ろには。
もう一つ影があった。
知らない男。
その男は。
まっすぐミカを見て言った。
「五百円」
その瞬間。
ミカが初めて驚いた顔をした。




