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ワンコインの女  作者: 臥亜


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第十一章 再会

真田はスマートフォンをポケットにしまった。


杉本には見せなかった。


今見せれば。


この場が崩れる気がした。


杉本は久保田の部屋をもう一度見回していた。


「何もないな」


真田は頷いた。


頭の中は別のことでいっぱいだった。


五人目。


そして。


杉本の写真。


杉本が言う。


「行くぞ」


「どこへ?」


「佐伯の部屋」


「一人目」


真田は驚いた。


「まだ残ってるんですか」


杉本は言った。


「空き部屋のままらしい」


「管理会社が面倒で放置してる」


二人はアパートを出た。


外は昼だった。


空は青い。


普通の一日。


だが真田の胸の奥には重いものがあった。


杉本が五人目。


それをどう伝えるべきか。


車に乗り込む。


エンジンがかかる。


そのとき。


杉本のスマートフォンが鳴った。


杉本は画面を見る。


知らない番号らしい。


「もしもし」


数秒。


杉本の顔が変わった。


「……誰だ」


真田は横で息を止める。


杉本は聞く。


「何の用だ」


電話の向こうの声は真田には聞こえない。


だが。


杉本の表情でわかった。


ミカだ。


杉本は言う。


「ふざけるな」


「今どこだ」


しばらく沈黙。


そして。


杉本の顔が固まった。


「……わかった」


電話は切れた。


車の中が静かになる。


真田は聞いた。


「誰です」


杉本はエンジンを切った。


それから言った。


「女だ」


真田は聞く。


「何て」


杉本は少し笑った。


だがそれは。


楽しそうな笑いではなかった。


「五百円」


真田の背筋が凍る。


杉本は続けた。


「一回だけ」


真田は言葉を失う。


杉本はドアを開けた。


「行くぞ」


真田は聞く。


「どこへ」


杉本は短く答えた。


「呼ばれた」


場所は川沿いの公園だった。


夕方。


空が少し赤くなっている。


人は少ない。


ベンチが並んでいる。


その一つに。


ミカが座っていた。


黒いコート。


風で髪が揺れている。


遠くから見ても。


普通の女性だった。


だが。


杉本の足が止まる。


三年前。


この女と会っている。


同じ女かどうかは分からない。


だが。


声は同じだ。


ミカは二人を見る。


そして微笑んだ。


「久しぶり」


杉本の声が低くなる。


「お前」


ミカは立ち上がる。


ゆっくり歩いてくる。


そして言った。


「五百円」


杉本はポケットから財布を出した。


500円玉を取り出す。


迷いはなかった。


それをミカに渡す。


ミカはそれを受け取らない。


「テーブル」


杉本は眉をひそめる。


「ここにテーブルはない」


ミカは笑った。


「じゃあ」


近くのベンチを指す。


杉本は500円玉を置いた。


カラン、と音がした。


ミカはそれを見る。


数秒。


そして頷いた。


「うん」


杉本は言う。


「三年前と同じだな」


ミカは答える。


「同じだよ」


「ずっと」


杉本は聞く。


「三人消えた」


ミカは肩をすくめる。


「そうだね」


杉本の声が強くなる。


「どこに行った」


ミカは少し考える。


それから言った。


「行きたい場所」


杉本は苛立つ。


「ふざけるな」


ミカは首を振る。


「ふざけてない」


そして。


杉本の目を見た。


黒い瞳。


静かな目。


そして言った。


「質問していい?」


真田の心臓が強く打つ。


来る。


ミカは言った。


「今の人生」


少し間。


「続けたい?」


杉本は笑った。


「三年前も聞いた」


ミカは頷く。


「うん」


「もう一回」


杉本は答えない。


夕方の風が吹く。


川の水が流れる音。


ミカは続けた。


「今度はどう?」


杉本の手が少し震えている。


真田は気づいた。


この男。


三年前とは違う。


ミカは静かに言った。


「続ける?」


そして。


「やめる?」


杉本はしばらく黙っていた。


長い沈黙。


そして。


ゆっくり口を開く。


「俺は」


真田は息を止める。


杉本は言った。


「三年前」


少し笑う。


「嘘をついた」


真田の頭が真っ白になる。


ミカは少しだけ微笑んだ。


そして言った。


「知ってる」


夕日が沈み始める。


そのとき。


ミカはポケットからコインを出した。


500円玉。


それを指で弾く。


空中で回る。


光を反射する。


そして。


ベンチに落ちた。


カラン。


ミカはそれを見て。


静かに言った。


「決まった」


杉本が聞く。


「何が」


ミカは顔を上げた。


そして言った。


「五人目」

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