第十章 残された部屋
翌朝。
真田はほとんど眠れなかった。
ミカの言葉が頭から離れない。
続ける?
やめる?
そして。
メッセージ。
最後の人。
真田は駅前の喫茶店で杉本と向かい合っていた。
朝の光が窓から入る。
コーヒーの匂い。
普通の朝。
だが二人の間には重い空気があった。
杉本が言う。
「三人目の部屋、行くぞ」
真田は顔を上げた。
「久保田の?」
杉本は頷いた。
「昨日、管理会社から連絡があった」
「何が」
杉本は言った。
「部屋の整理」
「警察の捜査は終わった」
「だから処分するらしい」
真田はすぐ立ち上がった。
「行きましょう」
久保田のアパートは古い建物だった。
三階建て。
外壁は色あせている。
杉本が鍵を開けた。
ドアが軋む。
部屋の中は。
空っぽだった。
家具はない。
冷蔵庫もない。
テレビもない。
カーテンもない。
ただ。
畳の部屋があるだけ。
真田は呟いた。
「本当に全部……」
杉本は頷く。
「売ったらしい」
「売った?」
「質屋」
「リサイクル店」
「全部調べた」
真田は部屋を見回す。
生活の痕跡がない。
まるで。
最初から誰も住んでいなかったみたいな部屋。
真田は歩き回る。
すると。
杉本が言った。
「ここだ」
真田が見る。
畳の角。
そこだけ少し擦れている。
杉本は畳を持ち上げた。
下に。
小さな封筒があった。
真田は息を呑む。
「何ですか」
杉本は封筒を開ける。
中から紙が出てきた。
一枚だけ。
真田が覗き込む。
そこには。
短い文章。
「後悔してない」
それだけだった。
真田は呟く。
「これだけ?」
杉本は紙を裏返した。
そこには。
数字が書かれていた。
「3」
真田の背中に寒気が走る。
「三人目だから……?」
杉本は黙っていた。
そして。
部屋を見回す。
「おかしい」
真田は聞く。
「何が」
杉本は言った。
「ここ」
真田は眉をひそめる。
「何が変です」
杉本は畳の下を指す。
「封筒」
「何ですか」
杉本は言った。
「隠してない」
真田は理解できなかった。
「え?」
杉本は言う。
「普通」
「何か残すなら」
「見つからない場所に隠す」
真田は頷く。
確かにそうだ。
杉本は続ける。
「でもこれは違う」
封筒を見る。
畳の下。
見つけようと思えばすぐ見つかる場所。
杉本は言った。
「まるで見つけてほしいみたいだ」
その言葉。
真田の背中に冷たいものが走る。
そのとき。
真田のスマートフォンが震えた。
メッセージ。
送信者。
ミカ。
真田はすぐ開く。
そこには。
短い文章。
「今日」
「会う」
「最後の人」
その下に。
写真が添付されていた。
真田はそれを開く。
そして。
息を止めた。
写っていたのは。
杉本だった。
杉本が立っている。
街の中。
遠くから撮られた写真。
そして下に。
文章。
「五人目」
真田はゆっくり顔を上げた。
杉本を見る。
杉本は気づいていない。
真田の手が震える。
五人目。
それは。
杉本だった。




