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翌日の午後四時。探偵事務所に大河内さんが来てくれた。
私はソファに座る彼女と御手洗さんに紅茶を差し出す。
「すみません。ありがとうございます」と彼女は言って、紅茶を一口啜る。
「いえいえ」
「それで、お話というのは?」
早速、彼女がそう訊いた。
御手洗さんが口を開く。
「例の事件についてです」
「事件……」
「あ、実はちょっと気になったもので……。個人的に調査していましてね」
そう言って、御手洗さんは苦笑する。
「はあ」
「それで、事件があった日の午後五時半まであなたが何をしていたかお話し願いませんか?」
御手洗さんがそう訊くと、大河内さんはため息を吐いた。それから彼女は口を開いた。
「昨日、警察にもお話しました。私はあの日の午後三時にここへ来ました。それで、堺くんのことを捜してほしい。そうお二人にお話ししましたよね?」
「ええ。その後は?」
「ここを出た後は、もう真っすぐ家へ帰りましたよ。帰宅したのは四時半頃だったかと」
「それからは?」
「それから……テレビでドラマや映画を観ていました」
「なるほど……。因みに、その日、ここへ来る前に堺さんとはお会いしましたか?」
御手洗さんがそう訊く。
「いえ」
「それでは、堺さんに最後に会ったのはいつです?」
「ええっと……」と、彼女は考える。ややあって、彼女は口を開いた。
「彼に会ったのは、五日前です」
「五日前……。というと、事件のあった三日前ですか?」
「はい」
「何時頃です? どうして彼に会ったんです?」
御手洗さんが立て続けに質問する。彼女は話をする。
「その日の夜です。確か……七時くらいだったかと……。その日、私は一人、喫茶店でコーヒーを飲みながら本を読んでいたんです。帰ろうとして席を立った時、ふと近くの席に彼がいるのを見つけて、よく見たら真璃とは違う女性で二人きりで話していたんです……」
「真璃さんとは違う別の女性ですか……」
「ええ。それで、私……気味が悪くて、すぐに会計を済ませてその場を出ました。そしたら……」
「「そしたら?」」
御手洗さんと私は同時に訊いた。彼女は交互に私たちの顔を見る。
「その彼がすぐに私に気付いて、声を掛けてきました。それで、『真璃にチクったら、お前を殺す!』って。その時、私、彼に脅されたんです!」
「はあ……。それは怖かったですね」
「はい。彼にそう言われて、私は怖くなって逃げました。その後、彼が追ってくるようなことはなかったですけど……」
「なるほど……」
「その翌日、真璃から電話がありました。――彼からプロポーズされた!――って彼女は嬉しそうに話していました。ですけど、私としては内心喜べませんでした。前日のことがあったからです。そこで、私は真璃に彼が昨日別の女性と会っていたことを正直に話そうと思いました。ですけど、昨日の彼のあの言葉通り『もし本当に殺されたら』と思ったら不安になって、話をするのを止めざるを得ませんでした……」
「ふーむ」
御手洗さんは紅茶を啜る。彼女は話を続けた。
「その次の日。私は彼の家へ行ってみることにしました。そこで、彼に真璃と結婚をしないでほしいと言いに行くつもりでした。けど、実際そこへ行ってみると、彼はいませんでした。車もありません。きっと真璃と一緒に居るのだろうと睨んで、彼女に電話してみました。そしたら、案の定、真璃は彼とドライブデート中でした。その時、私はようやく彼女に電話でその時あったことを打ち明けました。そしたら、やっぱり真璃は驚いたみたいでした。その後、真璃がすぐに家へ送ってほしいと彼に頼んでいるのが電話越しから聞こえました。それからすぐ電話は切れてしまったので、その後のことは分かりません……。ですが、その数時間後に真璃から電話があって、今度は彼と連絡が取れないし、自宅にもいないと言うんです。私は耳を疑いました。それで……」
「それで、こちらに?」と、御手洗さんが訊く。
「ええ」
「警察には連絡したのですか?」と、彼が再び訊く。
「い、いえ」と、彼女は首を振る。
「どうしてです?」と、彼は訊き返す。
「彼が『失踪』したと思ったので、警察ではなく探偵に相談するべきかなと考えまして……」
「そうでしたか。あ、そうだ。長澤さんにもお話を伺いたいんですが、彼女の連絡先を教えていただけませんか?」
それから、御手洗さんが大河内さんにそう訊いた。
「はい、構いませんけど」
彼女はそう言って、長澤さんのスマホの電話番号を教えてくれた。御手洗さんは手帳にその番号を書き記す。
「ありがとうございます。大河内さん、お聞きしたいことはこれで以上です」
そう言って、御手洗さんはソファからゆっくり立ち上がる。私も立ち上がった。
大河内さんも立ち上がり、彼にペコリと頭を下げる。
「どうぞお気をつけて」と、彼が言った。
私も深くお辞儀をした。それから、彼女はそこを出て行った。
「はあ、なんだか警察の取り調べみたいで緊張しました」
大河内さんが帰った後、私はそう声を漏らした。
「警察官というのはそういうもんだろう。しかし、我々は探偵だ」と、御手洗さんが笑って言う。
「さて、岩尾くん」
「はい?」
「長澤さんに連絡を取ってくれないかい?」
「あ、はい。分かりました」
私は長澤さんの電話番号に電話を掛けた。しかし、すぐには繋がらなかった。五分ほどして、事務所の電話が鳴った。私は電話に出る。
「はい。御手洗探偵事務所です」
『あ、もしもし』と、女性の声が言った。
「もしもし。長澤さんのお電話でお間違いないですか?」
『はい、そうですけど……』
「あ、良かった。急にお電話差し上げて申し訳ないです。あの、事件のことで少しお話しをお聞きしたくて……」
『はあ……』
「お手数ですが、一度、こちらにお越し頂けませんか?」
『あ、はい』
「ありがとうございます。いつ頃、ご都合つきますか?」
『明日の……午後とかなら何時でも』
「明日ですね。それじゃあ、明日の午後六時頃にこちらにお越し頂けませんか?」
『はい、分かりました』
「ありがとうございます。お手数ですが、よろしくお願いします」
私はそう言って、電話を切る。それから、私は御手洗さんの所へ行く。
長澤さんが明日の夜六時にここへ来ることを伝えると、彼は「分かった」と言った。




