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それから十分後に、御手洗さんは堺陽介の自宅へ行くと言って、探偵事務所を出ていった。
私は手を振って彼を見送る。
彼が出ている間、私はこの探偵事務所で留守番をする。前に、私は「助手」と言ったが、実際は「事務員」としての役割を担っている。彼が外出している間は掃除をしたり、電話に出たり、郵便物を受け取ったり……と色々な雑事をこなさなくてはならない。まあ、この探偵事務所には他に人がいないからだ。
私はそれが嫌だとは思わない。「仕事」だからという面もある。この探偵事務所に雇ってもらっているから。それもある。ただ、彼にとって必要な人間だから私は彼の「助手」をしているに過ぎない。
私の話はどうでもいい。彼の話をしよう。
午後五時半頃、突然、テーブルの上にあった私のスマホが鳴った。画面を見ると、彼の名前が表示されていた。すぐに私は電話に出る。
「お疲れ様です。岩尾です」
『お疲れ様です。今、堺さんの自宅マンションに来ているけど、とんでもないことに遭遇してしまった!』
電話口で御手洗さんがそう言った。
「とんでもないこと? どうしたんです?」
『マンションの駐車場にいるんだけど、青い車の中に堺陽介と思しき人物が眠っているようなんだ……』
「眠ってる? それなら、起こせばいいじゃないですか!」
『ああ、窓を叩いて起こそうとしたよ。けれど、起きる気配がしない。もしかするとだけど、彼……死んでいるのかもしれない!』
御手洗がポツリと言うのが聞こえた。
「え!? ウソ……」
死んでいる? どういうことだろう?? 堺という男は、何者かに殺害されたということか……?
『一旦、警察に連絡しようと思う。一応、記録のために写真は撮っておいたから、後で見せるよ。それと……大河内さんにも連絡しないと』と、御手洗さんは言った。
「分かりました。そしたら、彼女には私から連絡します」
私は彼にそう言った。
「うん、お願いします」
電話を切った後、すぐに私は依頼人の女性に電話を掛けた。
『はい、大河内です』
「あ、もしもし。私、御手洗探偵事務所の岩尾と申します」
『ああ、はい。何の用ですか?』
「あのですね。実は、堺陽介さんが見つかりまして……」
私がそう話すと、『え!? 本当ですか!』と、彼女は大きな声を上げた。
「ええ。ですが、ここから落ち着いて話を聞いてください。実は……」
彼が自宅の駐車場の車の中で死んでいるのを御手洗探偵が発見した、と私は単刀直入に彼女に伝えた。
『え……そんな……』
案の定、彼女は驚いているようだった。
「御手洗と話し合った上で詳しくお話したいので、今日か明日以降でもいいですが、こちらにお越しいただけませんか?」
私がそう提案すると、『ええ、分かりました』と彼女は頷いた。
「あ、あと、お友達の方……真璃さんって言いましたっけ?」
『はい』
「彼女にもお話しできればと思いますので、可能ならお呼びいただけないでしょうか?」
『分かりました。連絡してみます』
「ありがとうございます。では、また後程お電話お待ちしております」
私はそう言って、一度電話を切る。
数分後、事務所の電話が鳴った。大河内さんからだ。八時に真璃さんと一緒に来てくれるという。その後すぐに、私は御手洗さんに電話を掛けてその旨を伝えた。




