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その日の午後三時を過ぎた頃。探偵事務所に一人の女性が入って来た。
「あのー、すみません……」
黒髪のショートヘアで白のTシャツを着て、黒のスカートを履いたその女性が声を掛ける。
「はい」と、私は彼女に気付いて返事をする。
「少しお話したいことがありまして……」と、彼女は言った。
「どうぞ」
私はその女性を手近なソファへと勧める。
「今、御手洗をお呼びします」
私はそう言った後、奥の部屋の扉をノックし、中にいる御手洗さんに声を掛けた。それから私はキッチンへ行って、お茶とお菓子の用意を始めた。
私が彼女のところへ行くと、御手洗さんは依頼人の女性と向かい合うようにソファに座る。
私は二人に紅茶とプリンを出す。そのプリンも駅中のケーキ屋で買ってきたものである。
「早速ですが、まずあなたのお名前をお聞きします」
御手洗さんは口を開いた。
「はい。大河内莉歩です」と、彼女が名乗る。
「失礼ですが、御年齢は?」と、御手洗さんが訊く。
「二十四です」
「二十代か……。それで、今回はどのようなご用件で?」
御手洗さんは彼女に依頼内容を聞いた。
「ええと、『人探し』をお願いしたくて」と、彼女は言った。
「なるほど。それで、探してほしい人物というのは?」
御手洗さんはプリンを食べながら訊く。
「名前は、サカイヨウスケと言います」
「サカイヨウスケ……。漢字はどう書きます?」
「ええと、大阪の堺市の「堺」に、太陽の「陽」。それから、介護の「介」で、陽介です」
「堺……陽介……」
言いながら御手洗さんはポケットからメモ帳を取り出し、その名前を書いた。
「男性ですか?」
「はい」
「その人物との関係を教えて下さい」と、御手洗さんは訊いた。
「ええと、実は私との直接の関係ではなくて……。友人の彼氏にあたる人物です」
彼女がそう答えた。
「なるほど。ご友人の彼氏さんだと。どうしてその男性を捜してほしいんです?」
御手洗さんは不思議な顔でそう訊いた。
「その彼と友人――真璃――っていうんですけど、二人は一週間後に結婚式を挙げる予定だったんです。ですけど、彼が突然いなくなっちゃったみたいで……」と、彼女は話す。
「失踪か……」
そう呟いて、御手洗さんは紅茶を啜る。ふと、彼の方を見ると、プリンはもう全部食べ終えていたことに私は気付いた。
「多分……」と、彼女は呟くように言う。
「分かりました。堺陽介さんという男性を捜せばいいのですね。因みに、彼のご自宅や職場などはご存知で?」
御手洗さんがそう訊くと、「職場は知りませんが、彼の自宅なら……」と、彼女は言った。
それから、彼女が堺陽介の自宅の住所を御手洗さんに伝えた。
「ありがとうございます。あ、それと、堺さんのお写真とかって持っていたりしますか?」
御手洗さんがそう訊くと、「ええ」と大河内さんは頷いて、スマホの写真を見せてくれた。
彼と私はその写真を拝見する。その写真には、黒髪の短髪に眼鏡を掛けた若い男性が写っていた。
「かっこいい!!」
思わず私はそう口にしていた。御手洗さんがちらと私の方を見る。
「そうなんですよ」と言って、大河内さんは顔を綻ばす。「イケメンですよね」
「うん! イケメン!」と、私は笑顔で言う。
こんなイケメンな男性と結婚するなんてその友人の真璃さんが羨ましい。
「うん、確かに顔は良い」と、御手洗さんも彼をよく評価する。
だがしかし――
一体なぜこの堺という男性は、突然いなくなってしまったのだろうか。
結婚を目前に二人の間に何かあったのか。
堺さんが急に冷めてしまったのだろうか。それとも、冷めたのは真璃さんの方か。気になることが一杯である。
「ご協力ありがとうございます」
写真を見終えた後、御手洗さんは彼女にそう言った。
「では、早速、堺さんをお捜ししますので、見つかったら御連絡を……。あ、ご連絡先をお伺いしてもよろしいですか?」
そう言って、御手洗さんは彼女の連絡先を聞く。彼女はスマホの電話番号をそらんじた。
「分かりました。ありがとうございます」
御手洗さんは彼女の連絡先をメモしながら言った。
「よろしくお願いします」
彼女は御手洗さんの顔を見て、ぺこりと頭を下げた。
それから、彼女はソファから立ち上がる。「失礼します」と言って、彼女はそこから出て行った。
依頼人を見送った後、御手洗さんは彼女が手を付けなかったプリンを見ると、それを取って奥の自室へと入っていった。どうやら甘い物が大好きなその男は、人のモノでももったいないようで残っていれば自分で食べるらしい。面白い人だなと思い、私はつい笑ってしまう。




