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「まあ、しかし、後は警察に任せればいいさ」
御手洗さんはあっさりと言った。
確かにその通りだと私は思う。けれど、ここまで考えておいてここで手放すのももったいない。そう私は思った。
「本当にいいんですか?」
私は御手洗さんの顔を見て訊く。
「これ以上調べてどうする? もう我々の仕事の範疇は超えているんだ」
彼は剣幕な顔で言った。
「……そうですけど。やっぱり私はまだ納得いってません。犯人は誰で、その動機は何で……って、まだ分かっていませんから。ここで調査をやめるのは諦めでしかないと思います!」
そう言って、私はハッと我に返る。どうやら私は言い過ぎていたらしい。
「うん……そうだな……。岩尾くん、君の言う通りだ。ここでやめる理由も意味わからないね」
御手洗さんは思い直したように言った。
「さて、一体どうしたものか……」
彼はそう言って、考え始める。
私も一度黙り、考える。しかし、全く何も思いつかなかった。
「お茶淹れますか?」
咄嗟に私はそう彼に声を掛けてみる。彼は紅茶を飲み干していた。私のカップも空だった。
「いや、もういい」と、御手洗さんは静かに言う。それから、「岩尾くん、今日はもう帰ろう」と、彼が言った。時刻は七時半であった。
「はい」と、私は返事する。
私たちは帰る支度をし、その事務所を出ようとした。
「あれ?」
私はカバンをまさぐってスマホを探す。けれど、それが見当たらなかった。
「ん? どうした?」と、御手洗さんが不思議な顔で訊く。
「スマホが無いんです……」
「どっかに置いたんじゃないの?」
「ああ、そうかもしれないです」
「鳴らそうか?」
「すみません。お願いします……」
私がそう言うと、御手洗さんはズボンのポケットからスマホを出し、私のスマホに着信した。ややあって、どこかでスマホの鳴る音がした。
私は探偵事務所を見回した後、キッチンやトイレを探した。
「あ、ありました!」
トイレの中でそれを発見した。
少し前にトイレに入った時に、私はそのスマホでスイーツ店のサイトを見ていたことを思い出した。どうやらその時、トイレに置きっぱなしにしていたようだ。
「なんだ良かった」と、御手洗さんは声を漏らす。
「すみません」と、私は舌を出す。
「さあ、帰ろう」
それから、御手洗さんが言った。
「はい」と、私は返事した。




