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A.F.F.S (アカギ・フライングマシーン・ファクトリー・ストーリー)  作者: あくまでもフィクションです。石を投げないで。
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1933年6月 中国大陸 前線臨時飛行場

 大陸の雨季は、あらゆる「近代化」を泥の中に引きずり込む。連日降り続いた豪雨により、急造の飛行場はもはや滑走路の体をなしておらず、牛馬ですら足を取られるほどの深い泥濘と化していました。


 駐機場には、中島製の九一式戦闘機が数機、無力に並んでいました。


「……駄目だ。この泥じゃあ、離陸の飛沫しぶきをカウリングがまともに吸い込む。シリンダーが泥で詰まれば、離陸直後にエンジンが焼き付いてお陀仏だ」


 整備兵が泥まみれの顔で吐き捨て、作業を諦めていました。


 その「泥の海」の真ん中に、一機の怪鳥が鎮座していました。九二式双発軽爆撃機です。


 周囲の軽快な単発機を見下ろすような、全金属製の巨大な体躯。最大の特徴は、主翼の「上」にそびえ立つ、二基の「ハ一型(ハ1)」エンジンでした。通常、双発機のエンジンは主翼に埋め込まれるか吊り下げられますが、AFF社の設計はそれを拒み、わざわざ翼の上に載せたのです。


「……野郎ども、離陸するぞ! この泥を馬力で叩き伏せてやれ!」


 加藤隊長の叫びと共に、二基の「ハ一型」が咆哮を上げました。


 通常の高回転型エンジンが「キーン」という鋭い音を立てるのに対し、ハ一型の40,000ccという怪物的な排気量が産み出すのは、腹の底を揺さぶる重厚な唸りです。1,800回転という低回転設定は、爆発的な一撃一撃のトルクを、逃げることなく巨大な金属プロペラへと伝えました。


「……来るぞ、伏せろッ!」


 整備兵たちが顔を覆った瞬間、3.6メートルのプロペラが「物理的な塊」としての空気を叩きつけました。


 瞬間、プロペラ後流が滑走路の泥濘を凄まじい勢いで叩きました。汚水と泥、そして小石が弾丸のような速さで跳ね上がります。しかし、それらはすべてエンジンの「下」に位置する、あの分厚い全金属製の主翼に「バチン! バチン!」と激しい音を立てて遮断されました。


 主翼そのものが巨大な防波堤となり、跳ね上がった泥の飛沫は、その上にある精密なエンジン吸気口やシリンダーヘッドには、霧一滴さえ届きません。


「……なんてトルクだ。泥に脚を取られているのに、機体が強引に前に進み始めやがった!」


 地上で見守る整備士が叫びました。低回転大トルクの特性は、泥の粘りつく抵抗ドラッグを、機関車が重い貨車を引き出すような粘り強さでねじ伏せていきました。


 エンジンの回転が上がるにつれ、主翼の下では跳ね上がった泥が「防壁」に遮られ、左右に激しく散っていきます。その一方で、翼の上のハ一型(ハ1)は、泥の混じらない澄んだ空気を悠々と吸い込み、安定した爆発音を刻み続けました。


「上がるぞッ!」


 加藤隊長がスロットルを押し込むと、九二式双発軽爆撃機が泥濘を蹴立てました。


車輪のカバー内側にぎっしりと詰まっていた重い泥の塊が、離陸の瞬間、重力と遠心力に耐えかねてドサリ、ドサリと数十キロの塊となって滑走路(泥沼)へ剥がれ落ちていきます。


「……浮いた! 本当に浮きやがった!」


 中島製の単発機が泥に脚を取られて喘ぐ中、九二式だけは翼の上のハ一型エンジンが巻き上げる清浄な空気を吸い込み、安定した咆哮を上げて空へと駆け上がりました。


 離陸後、脚を格納する際に、残った泥がわずかに機体を汚しましたが、ハ一型は何事もなかったかのように回転を続けました。


 地上で見守る整備兵たちは、泥にまみれながら、空に消えていく九二式の異様なシルエットを呆然と見送っていました。


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