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A.F.F.S (アカギ・フライングマシーン・ファクトリー・ストーリー)  作者: あくまでもフィクションです。石を投げないで。
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1931年10月 岐阜県 各務原飛行場ブリーフィング

「……アカギさん。景気のいい話だが、我々も何も知らぬわけではないぞ」


 技術将校が、腕を組みながら冷ややかに笑いました。


「君のその『タイプ30』とやらは、本国アメリカで『重すぎて使い物にならん』と門前払いされたそうじゃないか。幾ら帝都防衛の爆撃機相手とはいえ、鈍重さが過ぎるようでは話にならん。もし敵の陣地へ攻め込み、敵の軽快な迎撃機に囲まれたらどうする? 旋回もできず、ただの重い標的として各務原の土に還るのが関の山だ」


 アカギは、その嘲笑を遮るように軽く手を上げました。


「……将校さん、一つ勘違いをなされているようです。この機体は、敵と『踊る』のではなく、敵を『殺す』ために作ったのです」


 アカギはゆっくりタイプ30を指差しました。


「あなたの言われる様に、米国陸海軍は私とこの機体を否定しました。彼らには最高のクロム鋼があり、100分の1ミリを狂わぬ工作機械があり、そして80/87オクタンという宝石のような燃料がある。彼らの理論では、戦闘機は『極限まで薄く、軽く、速く』あるべきだ。だが、それは『鏡のような滑走路と、最高の整備環境』があって初めて成立する、ひ弱な芸術品の話だ」


 アカギは振り返り、並み居る将校たちの顔を射貫くように見据えました。


「今の日本に、それがありますか? あなた達が手にする鋼材は不純物だらけで、燃料は泥水のような60オクタンです。米国の理論をそのまま持ち込めば、エンジンは離陸前に焼き付き、翼は初弾を受けただけで折れるだろう。……私がこの機体を重く、太く、無骨にしたのは、日本の『弱さ』をすべて飲み込んでの事です。


 彼は黒板に鋭い線を一本引きました。


「敵の迎撃機に囲まれる? どこから飛んでくるのか不思議ですが、まあいいでしょう。ですが、この『鉄の防壁』を撃ち抜くには、全弾を一点に集中させねば落ちませんよ。一方で、こちらは翼に秘めた6丁の牙で、触れるものすべてを粉砕する。格闘戦などする必要がありますか? 敵が旋回を始める前に、高度という重力を味方につけて速度で戦域を離脱する。相手がくるくる回っている間に、こちらは1回確実に落とせばいい。これが、米国のエリートたちが理解できなかったことです。


 アカギは加藤大尉に目配せを送りました。


「加藤大尉。あなた達がが『鈍重』と呼ぶこの機体が、空でいかに敏捷になるのか。そして、米国のエリートたちが信奉する『優雅な航空理論』が、この鉄塊の前にいかに無力か……みんなの目の前で見せてあげてください。


 750馬力の『AFF 1930』が、日本の粗悪な燃料をエネルギーに変え、地面を震わせる凄まじい咆哮を上げ始めた。


 強制冷却ファンが空気を切り裂くサイレンに似た「キィィィィン」という高い金属音。1,800回転に抑えられた大排気量エンジンが刻む、人間の肺、そして地面を物理的に震わせる「ドッドッドッドッ」という独立した打撃音。不規則なアフターファイア(失火)のない正確なリズムを刻んでいた。


 高音と低音が混ざり合ったその音は、軽快な「ブーン」という羽音ではなく、アメリカで「羽のついた蒸気機関車」と揶揄された面で迫ってくるような圧迫感を放っていた。


 この設計思想が生み出す音は、当時のどの飛行機とも異なっていた。低回転・定速運用と強制冷却がもたらすこの「整った騒音」は、聞くだけで「壊れる気配が微塵もない音」であることがわかった。




 試験開始:前半(巴戦)



 結果は、将校たちの予想通りでした。


 低高度での旋回戦に入ったタイプ30は、九一式戦闘機の軽妙な動きに翻弄されました。加藤大尉が操縦桿をいっぱいに引いても、重い機体は外側に膨らみ、九一式に易々と背後を許します。


「見たか! あの鉄塊は空飛ぶ標的だ!」


 地上で見守る将校たちが、勝利を確信して沸き立ちました。




 試験:後半



「……さて。ここからが『本番』だ」


 アカギの呟きと共に、タイプ30の動きが一変しました。


 加藤大尉は旋回を止め、スロットルを力強く押し込みました。750馬力の心臓が咆哮し、強制空冷ファンが熱風を吐き出します。九一式が追いすがろうと機首を上げた瞬間、タイプ30は「重力など存在しないかのような」急上昇を見せ、あっという間に九一式の限界高度を超えて雲の上へと消えていきました。


「逃げるのか、加藤!」


 彼らの視界からタイプ30は完全に消失しました。


 数分後。


 太陽の光を背負い急降下してきたのは、加藤の駆るタイプ30だった。九一式が旋回して避けようとするよりも早く覆い被さると、加藤はそのまま速度を落とさず、悠々と戦域を離脱。再び、九一式の手の届かない高空へと駆け上がっていった。




 九一式戦闘機パイロットの証言



「……認めざるを得ません。『巴戦』は通用しません。前半、旋回戦に持ち込んだ時は勝てると思いましたが、後半、あの大尉が本気を出すともうお手上げです。一生懸命に機首を回している間に、大尉は重力に逆らうような勢いで高度を稼ぎ、反撃の届かない高みから覆い被さってきました。追いかけようにも、エンジンがすぐに悲鳴を上げ、高度3000で足が止まります。あれでは空戦になりません」


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