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A.F.F.S (アカギ・フライングマシーン・ファクトリー・ストーリー)  作者: あくまでもフィクションです。石を投げないで。
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1936年8月 東京 赤坂「比良野」

 1936年8月15日午後7時30分


 二・二六事件の衝撃が冷めやらぬ赤坂表町、その一角にひっそりと佇む料亭「比良野」の周辺は、例年以上の酷暑に包まれていた。


 赤坂の夜を支配しているのは、重苦しく湿った熱気と、終わりを知らぬ蝉時雨。一ヶ月前にようやく戒厳令が解除されたとはいえ、街角に立つ憲兵の鋭い視線がまだ軍都の緊張を物語っている。


 しかし、その一方で、宵闇の向こうからはカッフェーの蓄音機が流すジャズの断片が聞こえ、帝都の退廃的な活気と軍靴の足音が奇妙に混ざり合っていた。


 石原莞爾大佐が「比良野」の黒塗りの門をくぐると、外界の喧騒は一気に遮断され打ち水が施された玄関先には、水を含んだ石畳の涼しげな匂いが漂い、行灯の柔らかな光が仲居の着物の裾を幽かに照らしている。


 石原が選んだ奥座敷は、隅田川から分流した築地川の支流を望む数寄屋造りの一室だった。


 床の間には、幕末の志士が揮毫したかのような力強い掛け軸が下がり、青畳の香りが鼻をくすぐった。庭園の池では、時折、大きな錦鯉が水面を叩く音が「ぽちゃん」と静寂を破り、それがかえって座敷の密談の重みを際立たせていた、


 卓に並べられたのは、暑気払いを兼ねた江戸前の洗練された品々。先付は氷を敷き詰めたクリスタルガラスの器に盛られた、透き通るような「星鰈ほしがれいの薄造り」で、 じっくりと出汁で炊き上げられ、キンと冷やされた「加賀太胡瓜と車海老の煮凝り」だった。


 そして、すずのちろりで供された冷酒は、石原の故郷、山形の銘酒。


 石原は軍服の襟元を少し緩め、錫の杯をクイと干すと、「アカギさん。どうですか。約束通りに軍事課長になりましたよ」と、いたずらっぽく笑った。


 その目の前には、名物の「鮎の塩焼き」が運ばれてきたところだった。炭火でじっくりと焼かれた鮎の皮目から、香ばしいたでの香りが立ち昇り、座敷へと満ちていく。


「……軍政と軍令は違うと皆に聞かされていたんですが、どうもあてになりませんね」


 対面のアカギは、冷酒の表面に映る月光を眺めながら、どこか遠くを見るような目で応えた。


 石原が軍事課長という「金と資材を差配する椅子」に座ったことは、日本の軍事工業が、石原の描く「巨大な歯車」に組み込まれたことを意味していた。


 だが、軍事課長は、予算、動員、兵器整備、および対外・対政府折衝を担う軍政の核心ポストでもある。


 アカギには、石原が軍事課長として、政界や官僚機構との調整の窓口として上手くやっていけるとも思えなかった。


「この鮎と同じですよ、アカギさん」と石原は箸を割った。


「頭から尻尾まで、一気に喰わねばならん。端からつついている時間など、今の帝国にはないのです」


 苦笑したアカギは、脇に置いてあった円筒形の製図入れを持ち上げてポンと叩いた。


「約束した『AFFタイプ36JAB(Japanese Army Bomber)です。詳しいことは食事が終わってからにしましょう」


「それは楽しみだ。ほら、アカギさんも早く箸をつけないと」


 石原は歯を見せて笑っていた。


 AFFタイプ36JAB(陸軍試作名称:キ36、後の九六式重爆撃機)


 AFFタイプ36JAB(Japanese Army bomber)「空の要塞」性能諸元(1936年案)


項目. 性能数値. 特徴

全長 / 全幅. 22.5 m / 32.0 m. 九二式重爆を凌ぐ巨体。橋梁技術の「鉄骨トラス」が巨体を支える。

全備重量. 26,200 kg. 800kgのエンジン4基と重装甲により、当時の基準では超重量級。

エンジン. ハ一(ハ号一型)× 4基. 計3,000 hp。翼上配置により、泥・雪・小石の吸い込みを皆無に。

プロペラ. 3.6m ジュラルミン2枚固定. 固定ピッチの頑強さが、不整地での「全力離陸」を可能にする。

最高速度. 308 km/h. 翼上エンジンのドラッグはあるが、低振動による安定飛行を優先。

巡航速度. 242 km/h. 1,800rpm定常運転。シベリアの寒気でもハ1は「平温」を維持。

武装. 12.7mm機銃 × 13丁. 九五式12.7mm銃。各方位に死角なし。ハ1の低振動で命中率向上。

最大爆装. 800kg爆弾 × 4発. 胴体内の大型爆弾倉に格納。鉄道用クレーン技術の投下器。


 「爆弾架吊り下げ式・防弾燃料タンク(湯たんぽ)」の運用バリエーション


このシステムは、胴体内の4箇所の爆弾架ステーションに、「800kg爆弾」を吊るすか、「800kg相当の燃料入り防弾湯たんぽ」を吊るすかを選択できる仕組みです。


 1. 長距離偵察・回航仕様(湯たんぽ 4個 / 爆弾 0発)


航続距離:約 5,200 km

運用: 4箇所の爆弾架すべてに、ワイヤー網で補強された「防弾湯たんぽタンク(1個あたり約1,000リットル)」を装備。

特徴: 爆弾を一切持たず、燃料を最大化した仕様。バイカル湖以西のソ連軍拠点を偵察し、無着陸で帰還可能。


 2. 最大航続爆撃仕様(湯たんぽ 3個 / 爆弾 1発)


航続距離:約 4,200 km

運用: 3個のタンクと1発の800kg爆弾を搭載。

特徴: 石原が最も重視した数値です。離陸直後に「外部」扱いの湯たんぽタンク(爆弾架に吊るされているもの)から優先的に燃料を消費。敵地到達前にタンクを順次投下し、身軽になった状態で目標へ800kg爆弾を投下します。


 3. 標準戦略爆撃仕様(湯たんぽ 2個 / 爆弾 2発)


航続距離:約 3,200 km

運用: 2個のタンクと2発の800kg爆弾を搭載。

特徴: ウラジオストクやハバロフスクなど、極東ソ連軍の主要拠点を確実に粉砕し、余裕を持って帰還できる「実戦的」な構成。


 4. 短距離最大破壊仕様(湯たんぽ 0個 / 爆弾 4発)


航続距離:約 1,800 km(翼内タンクのみ)

運用: 爆弾架すべてに800kg爆弾を搭載。

特徴: 満ソ国境付近のトーチカ群や集中部隊への強襲用。圧倒的な投下弾量で「面」を制圧する。


 画期性と技術的整合性:なぜ「内部」で投下するのか

通常の航空機では「増槽ドロップタンク」は翼の下などに吊るしますが、アカギはあえて「胴体内部の爆弾架」に燃料タンクを吊るしました。

 ドラッグ(空気抵抗)の皆無:

燃料タンクが胴体内に格納されているため、離陸時の空気抵抗が増えません。これにより、重い「ハ1」エンジン4基でも、不整地から安全に離陸できます。

 爆弾架の汎用化:

「爆弾を落とす装置」で「燃料タンクを落とす」ため、新たな専用装置が不要です。農機のクラッチ技術を転用した頑強なラッチ(爪)が、重量物であるタンクを確実に保持し、空になれば爆弾と同じ手順で「投下(廃棄)」します。

 重心位置の安定:

燃料と爆弾が同じ位置(重心付近の爆弾倉)にあるため、燃料を消費しても、爆弾を投下しても、機体のバランスが大きく崩れません。これは「低熟練の操縦士」でも巨大な四発機を安定して扱えるためのアカギの配慮です。

 「湯たんぽ」の防御力:

ゴムを重ねた防弾湯たんぽタンクは、それ自体が爆弾倉の中で「緩衝材」として機能します。被弾時、気化したガソリンが充満する危険な金属タンクと違い、ゴムの塊が小銃弾を食い止めるため、12.7mm機銃13丁の死角と相まって「墜ちない要塞」を物理的に形作ります。



 1. 「翼上エンジン配置」


 不整地運用の最適解: エンジンを主翼の上に配置することで、プロペラ先端と地面の距離グランドクリアランスを最大化しています。これにより、満州やシベリアの未整備な野戦飛行場、あるいは結氷した河川からの離着陸時に、プロペラが雪や泥を叩くリスクを物理的に排除しました。

 整備性の向上: 翼の上であれば、整備兵が梯子を使わずとも主翼を足場にしてエンジン調整が可能です。これは極寒地での作業時間を短縮し、結果として稼働率を高めます。


 2. 「爆弾架吊り下げ式・防弾燃料タンク」


 重量配分の合理性: 最大重量で離陸する際、胴体直下の爆弾架に「燃料」を吊るすことで、離陸直後にこの「最も危険で重い外部燃料」から消費します。

 使い捨て防弾: ゴム製湯たんぽタンクをワイヤー網で保護したこのユニットは、空になった瞬間に投下可能です。これにより、敵地へ到達する頃には空気抵抗ドラッグが減り、機体は軽くなり、被弾面積も最小化されるという、戦術的な「脱皮」を実現しています。

 整合性: このシステムにより、通常の四発爆撃機では不可能な「爆撃後の空戦機動性」の向上が見込まれます。


 3. 12.7mm×13丁の防御火器


 ハリネズミの論理: 1936年当時、ソ連軍戦闘機(I-15/I-16)の武装は7.62mmが主流でした。射程と威力で勝る12.7mmを全方位に配備したAFFタイプ36JABは、追随する戦闘機をアウトレンジ(射程外)から撃墜可能です。

 低振動プラットフォーム: ハ1の1,800回転固定運転がもたらす「揺れない機体」は、長距離飛行での銃手の疲労を軽減し、精密な防空射撃を可能にします。


 4. 戦略的評価


この機体は、石原莞爾が夢想した「一撃でソ連の継戦能力を奪う」ための戦略インフラです。

アカギはあえて「沈頭鋲」や「可変ピッチプロペラ」といった新技術を使わず、「既存のハ1とボルト留めの鉄骨」でこれを組み上げました。これにより、1936年時点での地方町工場でのバイパス生産が可能となり、石原が軍事課長として差配する予算は、そのまま「空の要塞」の数へと直結することになります。




九六式重爆撃機(AFFタイプ36JAB)は、主翼と尾翼が『 Ford-Douglas FD-42 "Sky-Master" 』によく似ていました。特にH型双垂直尾翼は、全高を抑制し、低速時の離着陸時の直進性を向上させることもありましたが、最大の目的は12.7mm×13丁の「ハリネズミ」を完成させるため後部射界の確保することでした。


石原軍事課長は、AFFタイプ36JABの試験機を10機近く試作させて、あっという間に比較審査を終わらせて先行量産を始めさせましたが、他の中島や三菱といったメーカーからの激しいクレームを受けて、陸軍省でも問題になります。


1937年8月、そんな時に北支から上海上空に現れた陸軍の九六式重爆撃機は、海軍の九六式陸上攻撃機と違って。カーチス・ホーク III(Curtiss Hawk Ⅲ)やボーイング 281(Boeing Model 281)、ノースロップ・ガンマ 2E (Northrop Gamma 2E)を返り討ちにして、悠々と去っていく様を世界に見せつけました。


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