1931年初頭 オハイオ州 ライトフィールド基地
吹き曝しの滑走路には、米陸軍航空隊(USAAC)の主力機であり、軽快な運動性の象徴であるボーイングP-12Eが並んでいる。その隣で、鈍い金属光沢を放つAFFタイプ30は、まるで場違いな「鋼鉄の彫像」のように居座っていた。
試験飛行を終えたテストパイロット、ハワード大尉がコックピットの風防を荒々しくスライドさせ、地上に降り立つ。
「…おい、アカギ。これを『戦闘機』と呼ぶのは冗談が過ぎる。まるで空飛ぶ銀行の金庫じゃないか」
大尉は、汗で張り付いた飛行服を脱ぎ捨て、不快そうにタイプ30の分厚い主翼を叩いた。
「離陸の上昇力だけは認めよう。750馬力の化け物エンジンで、空へ駆け上がるまではいい。だが、そこから先が問題だ。旋回に入った途端、機体が外側へ逃げようとする。慣性が強すぎて、まるで尻を振る太った牛を操っている気分だ。我々のP-12なら3回は円を描ける時間に、こいつはやっと半周するのが精一杯だぞ」
審査官である陸軍将校が、手帳に「運動性:極めて不良」と書き込みながら付け加えます。
「格闘戦になれば、敵機に背後を取られるのは目に見えている。戦闘機とは、優雅に舞い、敵の背後に食らいつくものだ。こんな『力任せの鉄塊』に空戦の美学など欠片もない」
大尉はさらに、密閉式のコックピットを指して冷笑を浮かべました。
「それに、この密閉式キャノピー(風防)だ。戦闘機は風を感じ、エンジンの匂いを嗅いで飛ぶものだ。こんな硝子の箱に閉じ込められて、曇ったらどうする? 敵の気配はどう察知する? 万が一の脱出時に、スライドが引っかかったら……想像しただけで背筋が凍るよ」
陸軍の技術将校たちは、AFFエンジンの構造図を囲み、呆れたように首を振ります。
「エンジンの信頼性を守るために、他社の倍近い『重さ』という罰金を払う……。それが君の答えか、アカギ。我々にはP&Wの軽量で洗練された『ワスプ』がある。わざわざ性能をデチューンし、粗悪な素材でも動くようにした『田舎者向けの機械』に予算を割く余裕は、合衆国陸軍にはない」
将校たちの結論は冷徹でした。
「判定:不採用。本機は戦闘機としての『優雅さ』と『格闘性能』を欠いている。迎撃機としての火力と上昇力は評価するが、過剰な自重と複雑な引き込み脚は、信用ならんな」
サトシ・アカギは、P-12の薄い布張りの翼を見つめながらその酷評を黙って聞き流していた。
(……今に見ているがいいさ。全金属製の翼に6丁の機銃を詰め込み、重いエンジンは『盾』になる。この残酷なまでの合理性が、数年後、君たちの愛する『優雅な複葉機』を過去の遺物に変えるのだから)
米陸軍技術将校による評価メモ
1. 重量と出力の矛盾(エンジニアリングの視点)
「P-12Eが325kgのエンジンで1.2トンの機体を軽々と振り回しているのに対し、タイプ30は720kgもの『鉄塊』を積んで2.3トンもの巨体を強引に持ち上げている。これは航空工学の進歩ではなく、蒸気機関車に翼をつけたような退歩である。素材の悪さを『厚みと重さ』で解決しようとする思想は、洗練を旨とする我が陸軍航空隊には不要だ」
2. 武装と速度の過剰(ドクトリンの視点)
「6丁もの機銃は過剰だ。2丁の機銃で敵の急所に一撃を加えれば済む話であり、そのためにこれほどの重量増を招くのは本末転倒である。速度は評価に値するが、この重量ではドッグファイトでP-12Eの背後を取ることは一生不可能だろう。空中戦は『ダンス』であり、『衝突』ではない」
3. 結論
「AFFタイプ30は、戦闘機としてはあまりに鈍重で、あまりに好戦的すぎる。米国の高度な冶金技術とP&Wの洗練された発動機を捨ててまで、このような『壊れないことだけが取柄の不格好な農機具』を採用する理由はどこにもない」




