1933年10月下旬 東京明石町 「つきじ治作」
1933年10月下旬。東京の夜は、国際連盟脱退という孤立の道を選んだ国の不安をかき消すように、どこか浮ついた熱を帯びていた。
隅田川の河口に近い明石町。かつて三菱の祖・岩崎弥太郎が別邸を構えたその場所に、創業してわずか三年の料亭『つきじ治作』はある。俗世を峻拒するように構えられた黒門をくぐると、都心の喧騒は嘘のように消え去った。
仲居に導かれ、渡り廊下を進む。八百坪の広大な敷地に広がる池には、月明かりを反射して錦鯉が音もなく跳ねていた。通されたのは、築地川の支流に面した数寄屋造りの一室。床の間には端正な掛け軸が下がり、創業者の本多次作が蒐集したであろう、重厚な古伊万里の壺が鈍く光っている。
窓の外に目を向ければ、闇に沈む水面を、荷を積んだ艀が数個の灯火を揺らしながら、ゆっくりと上流へ向かっていた。
「ここなら、余計な耳もありませんな。……もっとも、連盟を蹴った今の日本に、秘密などあってないようなものですが」
満州事変で満州を制したように、北支(華北)を熱河作戦で制したことを言っていた。
低く、しかし野心に満ちた声の主は、支那派遣軍高級参謀・石原莞爾大佐だった。熱河作戦を成功に導き、九二式双発軽爆撃機という『空飛ぶ砲兵』で万里の長城を飛び越えた男は、今や日本陸軍で「作戦の神様」と称えられ、絶頂期にあった。
対面に座るアカギは、名物の『水たき』から立ち上る濃厚な湯気の向こうで、相変わらずの笑みを浮かべている。
石原は、徳利を傾けながら、熱河の戦果を支えた「稼働率」という言葉について語り始めた。
「いやはや、アカギさん。今や陸軍では猫も杓子も稼働率、稼働率ですよ。参謀本部も大蔵省も、商工省も動かない鉄屑には一銭も出さぬと息巻いている。……それに関東軍もうるさくてね。『支那派遣軍に最新鋭機を全部持っていかれた。九二式双発機とトラックでの自動車化を強く中央に要請している。稼働率が問題なのでフォード製を全部回せ』だの、ないものねだりも甚だしい」
石原はそこで、本題とも取れる話題を振った。
「貴方の『九二式司偵』は南京まで飛んだそうですね。あれだけの航続距離があれば……アカギさん。ソ連奥地まで届く四発爆撃機は、いつごろになりますかな?」
AFFのライセンス生産である九二式双発シリーズの心臓であるハ一(ハ号一型)エンジンは、AFFの機体以外には取り付けられない契約だった。
石原の細い目が、獲物を狙うようにアカギを射抜く。だが、アカギは何も答えない。ただニコニコと頷きながら、ゆっくりと濃厚な白濁スープを口に含んだ。アカギには、四発の爆撃機を作る権限も資本も、今の石原にはないことが分かっていた。
石原はアカギに気がないことを悟ると、苦笑いして話を九二式へ戻した。
「まあ良い。しかし、あの九二式は素晴らしい。何よりトラックよりも稼働率が高いときた」
ジョークなのか、本気なのか。石原は紫煙を燻らせながら、整備兵たちの間で流行っている冗談を口にした。
「満州にいた(陸軍航空隊の)整備兵たちが言ってましたよ。『他所の連中は朝の3時から焚き火を焚いて拝んでいたが、俺たちは交代で起きて、温いハ一の腹の下に炭を放り込む(継ぎ足す)だけでいい。こいつは、一度火を入れりゃ、自分の熱で目を覚ます』とね。……実に愉快な話だ」
ハ号一型は800kgの鋳造なので、前日にエンジンを回していれば冷めるまで時間がかかる。その間は極寒地用のシャッターを閉めてオイルパンの下で炭火を炊いていれば、夜間は交代で炭を継ぎ足すだけで、すぐにエンジンを点火させることができた。
他のエンジンになると。エンジン本体をガソリンで燃やしたりて温めても、すぐに冷めるのでノッキングで停止したり火傷をしたりする。睡眠時間も削られて作業ミスも起こりやすくなる。
そういう話だった。石原はタバコを灰皿に置くと、冗談めかして身を乗り出した。
「アカギさん。自動車もなんとかしてくれないか? 輜重は酷いもんです。フォードのトラックならば『万歳三唱』だが、国産トラックなら『お通夜』ですよ。あれもなんとか、火を入れるだけで動くようにはならんかね」
アカギは少し上を向いて考えた後、傍らの鞄から一冊のノートを取り出した。そして、胸ポケットの万年筆で、引きちぎったノートの紙にサラサラと図面を描き始めた。
一瞬、呆気に取られた石原も立ち上がり、後ろから覗き込む。
アカギが万年筆を走らせて引いたのは、フリーハンドの真っ直ぐな線。縦と横に二本ずつ。その枠の中に、屋根もドアもない、武骨な八輪トラックの三面図が立ち上がっていく。
「これは……」
「鉄骨フレームに、低速のポンポンエンジンを載せただけです。八輪のうち後輪二輪のみを駆動させ、巡航速度は20キロほどでしょうか? 馬より速く、トラックより壊れない。極寒地でも、火で炙ればすぐに動きます」
そして、二枚目には八輪中型トラックをベースにした傾斜装甲を持つ装甲車の三面図が描かれる。
それを手渡された石原が、エンジンルームから屋根の上まで高く突き出した二本の無骨な鉄管を指差した。
「アカギさん、この煙突のようなものは何です?」
「吸気と排気の管ですよ。雪で塞がれないようにね」
さらりと答えたアカギに、石原が声を立てて笑った。
「満洲の冬は、そんなに雪は降りませんよ。しかし……なるほど、これは面白い。馬より速く、トラックより壊れない。確かに、これは素晴らしい。しかし、アカギさん」
ふと真顔に戻った。
「焼玉エンジンは、燃料も水も牛馬のように暴飲暴食しますからな。満洲の北方のような人もいない地域では、いささか使い物にならんでしょう。それに、そんなところでは少し煩すますな」
アカギは石原の指摘に、手を止めずに新たなノートの紙にサラサラと線を引いていた。
「……それは、列車の車列ですよ」
アカギの意外な答えに、石原は怪訝な顔をして首を傾げる。
「列車の車列、とは?」
アカギは万年筆を置き、石原の方を振り返った。
「たとえば、焼玉車両が10台いるとします。それに給水車一両と燃料車一両を加えた十二両で一隊を形成する。一つの独立した輸送隊です。鉄道や村や水源から離れる距離ごとに、給水車や燃料車が増えていく。そうですね……ゲージ(軌間:レールの左右の距離)の小さい鉄道路線の車列ですよ。
蒸気機関車には、一定距離ごとに給水塔が要るでしょう? 大きな焼玉エンジンの音や蒸気音や連棒の打撃音の続く車列は、列車輸送そのものと言ってもいい」
石原は、アカギの言葉を反芻する。「給水塔が要る」。兵站の概念そのものだ。
「なるほど、補給を内包した車列か。しかし、アカギさん。結局、焼玉は燃費が悪い。消費量が多ければ、それだけ後方の負担が増えるだけでは?」
石原の問いに、アカギは喉を鳴らして笑った。それは、日本軍の将校が皆持つ、ガソリンという「輸入燃料」への劣等感を見抜いた笑いだった。
「石原さん。燃費が悪いというのは、ガソリン(揮発油)と比べての話ですよ。焼玉の燃料は、満鉄の廃油や、満州特産の大豆油など、ずっとガソリンよりも安い。大豆油なんて、満州国は世界で一番大豆を生産しているでしょう? まさか、焼玉エンジンの燃料の輸送量の話ですか?」
石原はハッとした。満洲には石油がない。だが、世界最大級の「油」がある。
「日本の将校さんには、いつも総力戦がどうしたこうしたと聞かされますがね」
アカギはそう言いながら、また新たな紙をちぎり、万年筆の先を走らせる。
「私に言わせれば、その理屈を押し通すのならば、輸入に頼るガソリンで走るバスやタクシーを作るべきではない。大豆油で国内を走らせるべきです」
描かれた図面は、屋根まで伸びた煙突を持つ、武骨な「焼玉エンジン搭載の市営バス」だった。
「……バスの排気管も天井まで伸ばしますか」
アカギはわざとらしく肩をすくめ、万年筆の先で図面を叩いた。
「ですが、これは石油ストーブや暖炉の煙突と同じです。一酸化炭素、二酸化炭素中毒は怖いですからね。兵士を殺すのは敵弾だけで十分でしょう」
石原はその奇妙な『煙突』を繁々と眺めていたが、ふと思いついたように目を輝かせた。その目は八輪装甲車を捉えていた。
「……これだけ高く管が伸びているなら、水の中もいけますか?」
今度はアカギが驚き、目を丸くした。
「水の中……? ええ、理論上は、エンジンが浸からず、空気が吸えて排気さえできれば、問題はありませんが」
「ははは! ならば、こいつは『底を這う船』にもなりますな」
ポンポン船は潜水艦になりますかと、石原は愉快そうに八輪装甲車の図面が乗った机を叩いた。
「これなら、騎兵が行けるところは、どこだってこいつも行けます。川も泥も、こいつにとってはただの道だ」
石原の想像力は、すでに時速20キロで泥濘を渡る鉄の軍団を捉えていた。アカギはそれに応えるように、同じ思想の六輪車の自動車・小型トラックの三面図を、まるで魔法のように次々と描き出してみせた。
石原はそれら五枚のポンチ絵を繁々と眺め、細い目をさらに細めた。
「……ところで、これは、お幾らですか?」
「車両価格なら、既存の二分の一から三分の一以下でしょう。ただし、ライセンス契約の話なら、AFF設計ですからライセンス料はいただきます。ただより高いものはないですよ、石原さん」
石原は千切られたノートの紙を睨みながら、ハハハと声を上げて笑った。
「アカギさん相手なら、相当高くつきそうだ。だが、この『巡航時速20キロは、悪くない。これなら満州の泥も雪も、マイナス40度だって踏み躙りそうだ」
これで関東軍の連中も少しは大人しくなるでしょうと石原が呟いた。
窓の外、築地川を静かに進む艀の灯火が、暗い水面に長く尾を引いていた。
「焼玉車両群」は、史実の九四式六輪自動貨車や九五式小型乗用車が持つ「多輪・多軸」のコンセプトをベースに、心臓部をクボタ式焼玉発動機に換装し、さらにシュノーケル(煙突)という独自進化を遂げた、「最強の不整地・極寒地仕様」と言えます。
クボタ・ヤンマーの農業用石油発動機(焼玉エンジン)は、「焼玉」または「石油発動機」と呼ばれた。漁船や農家で「火で炙って動かす」日常の風景そのもの。
「直列三気筒・9,000cc・45馬力」というスペックは、当時の基準で言えば「20トン〜30トンクラスの大型漁船(中型トロール船や沿岸航路船)」に使われていた主機です。
海上では水面が音を吸収・拡散し、また周囲に壁がないため、心地よい「ポン、ポン、ポン」というリズムとして数キロ先に届きます。(約100dB)
アカギが石原大佐に提示した「時速20キロの鉄獣」の心臓部として、「焼玉エンジン(セミ・ディーゼル)」を採用するのは極めて現実的で、1930年代の満州において「最強」と言えるのか、
1. 焼玉エンジン(セミ・ディーゼル)採用の技術的必然性
「火で炙る」ことの正当化:
焼玉エンジンは、始動前に「焼玉」をトーチで赤熱するまで熱する必要があります。これは「故障」ではなく「仕様」です。マイナス40度の満州において、精密な電気火花に頼らず、「直接火で炙って始動する」焼玉は、最も信頼できる点火方式となります。
燃料を選ばない「悪食」:
精製度の低い軽油、重油、あるいは大豆油や魚油(これらは当時の満州で入手可能)でも平然と動きます。物流が寸断された戦場において、これは「最強の生存性」を意味します。
低回転・巨大トルク:
焼玉はポンポンとゆっくり回りますが、一撃の爆発力が強く、泥濘地で八輪を回し続けるのに必要な「粘り」を持っています。まさに「馬の代わり」にふさわしい特性です。
2. 焼玉ポンポン車両群のスペック(1936年)
項目仕様・特徴
形式. 単気筒または二気筒 横置焼玉エンジン
配置. RR: 焼玉の巨大なフライホイールが後輪のトラクション(接地力)を稼ぐ
始動法. 予熱用トーチで焼玉を5分加熱後、フライホイールを人力またはバールで回す
巡航速度. 20 km/h(エンジンの最高回転数が数百回転のため、これが物理的限界)
耐久性. 構造が農機具そのもの。国鉄工場や地方の町工場で部品製造が完結
1937年末:関東軍 焼玉車両シリーズ配備一覧
関東軍は対ソ連国境(北満)の軍事緊張に備え、以下の拠点に焼玉車両を集中的に配備しました。
配備位置(拠点). 担当部隊. 九三式小型自動貨車 (6輪). 九四式六輪自動貨車(乙:6輪). 九四式八輪自動貨車 (8輪). 九五式装甲自動車(8輪). 備考
斉斉哈爾. 第14師団. 120. 500. 350. 72. 対ソ最前線。最も過酷な環境
佳木斯. 第11師団. 100. 450. 300. 60. 三江平原の湿地帯。焼玉のトルクが必須
新京(長春). 独立自動車部隊. 50. 800. 500. 24. 兵站の中枢
奉天(瀋陽). 第10師団. 120. 450. 250. 48. 支那派遣軍への補給中継・予備兵力
ハイラル(海拉爾). 騎兵集団. 80. 200. 150. 36. 砂漠・草原地帯。馬匹と焼玉車の混成
合計 470台. 2,400台. 1,550台. 240台. 総計 4,660台
総生産数と配備の内訳(1937年末時点)
車種. 総生産数(累計). 満州(関東軍)への配備. 備考
九三式小型(6輪). 約480台. 470台. 10台程度は内地での試験・教育用。
九四式六輪(乙). 約2,450台. 2,400台. ほぼ全数が満州の泥濘地へ。
九四式八輪(3t積). 約1,600台. 1,550台. 輸送の基幹として全数満州へ。
九五式装甲車(8輪). 約250台. 240台. 北満の「動くトーチカ」として独占。
合計. 約4,780台. 4,660台. 約97%が満州に集中。
配備推移表(1937年末・関東軍)
年次. 生産・配備の状況. 累計
1934年. 九三式小型・九四式乙の先行試作分を北満へ. 50台
1935年. 八輪(3t積)の生産開始。石原の「車列運用」実験. 650台
1936年. 九五式装甲車を含む全車種の量産。稼働率100%を実証. 2,450台
1937年. 4,660台. 2,210台を追加生産。関東軍の完全機械化達成
町工場ラインの限界: 大手メーカーを使わない「バイパス生産」の限界がこの4,000〜5,000台という数字です。これを全軍に薄く広げるのではなく、関東軍に集中させて「一つの完成されたシステム」として実証実験を行っているのが1937年時点の状況です。
2. その他メーカー(既成自動車)の配備状況
「焼玉」が野戦の主役となる一方、舗装路や都市部では依然として既存メーカーの車両が運用されていましたが、冬期の稼働率は極めて低い状態でした。
石川島・東京ガス電気: 約450台
用途: 新京や奉天などの都市部での連絡・高級将校の送迎。
実態: 冬季はガソリンの結露とバッテリー上がりに悩み、司令部の地下駐車場に死蔵されがち。
日本フォード(横浜製)・日本GM(大阪製): 約200台
用途: 幹線道路(新京〜奉天間)の高速輸送。
実態: 部品供給が滞り始め、共食い整備が進行中。
3. 部隊毎の具体的な配備・運用実態
第14師団(対ソ連国境部隊)の例
1個歩兵連隊に、馬匹に代わって「焼玉中隊」が1つ付随する形が定着しました。
運用: 朝5時、マイナス40度の暗闇で整備兵がトーチで焼玉を熱し、爆発音が響き渡るのが「起床の合図」となります。
渡河: 1937年の北満豪雨による泥濘期、既存の国産トラックが全滅する中、屋根まで伸びた吸排気管(煙突)を持つ「九四式八輪自動貨車」だけが、水深1.2mの濁流を「ポンポン」と音を立てて渡りきり、前線に弾薬を届けました。
アカギ製焼玉車両の燃費性能は「数値(km/L)で見れば極めて悪いが、軍事・経済のコストパフォーマンスで見れば最強」という独特な立ち位置になります。
1. 燃費の数値:ガソリン車の約1.5倍〜2倍の燃料を消費
焼玉エンジンは低回転・低圧縮のため、熱効率は現代や当時のガソリンエンジンに劣ります。
焼玉4座(九三式小型): 約 3~4 km/L
焼玉中トラ(九四式八輪): 約 1.5~2 km/L
比較対象(史実の1.5tガソリン車): 約 5~7 km/L
単純な「同じ量の燃料で走れる距離」では、焼玉車はガソリン車に完敗しています。しかし、ここからがアカギの「算盤」の真骨頂です。
2. 「燃費の質」による逆転(リッター単価の差)
1930年代の燃料事情を考慮すると、以下の「価格と調達性」の差が決定打となります。
燃料費の圧倒的安さ:
当時の軍用ガソリン(揮発油)に対し、焼玉が使う重油や粗悪な軽油は価格が「3分の1以下」です。
計算: 燃費が半分でも、燃料単価が3分の1なら、「1円あたりの走行距離」は焼玉車の方が圧倒的に長いことになります。
「満州の金」=大豆油の利用:
満州特産の大豆から絞った油をそのまま(あるいは簡単な濾過だけで)燃料に転用できるため、輸入に頼るガソリン車よりも兵站コストは実質的にゼロに近くなります。
焼玉車両四車種の性能諸元(騒音レベル:車両から7.5m離れた地点での計測値を想定)
1. 九三式小型自動貨車(六輪・ 0.5トン積)
皇紀2593年(1933年)制式採用。史実の「九五式小型乗用車(くろがね四起)」より2年早く、かつ「乗用車」ではなく「自動貨車トラック」枠で予算を確保。
コスト重視のチェーン駆動では、単気筒焼玉エンジンの爆発音(ポン、ポン、ポン)と、駆動チェーンの金属音(チャラチャラ、ジャラジャラ)による合計が、時速10kmでの約 90 dB。時速15kmでの約 100 dBと時速20kmでの約 108 dBになります。
「非常に声の大きい農機具」という印象になります。
項目. 性能・仕様. 特徴・役割
エンジン. 単気筒水平対向 焼玉エンジン (約3L級). クボタ製農業発動機をベースに軍用強化。約15馬力程度。
冷却方式. 水冷式(蒸発). ラジエーターはなく、タンクの水を沸騰させて蒸気で逃がす方式。補充は頻繁だが冷却不能はない。
配置RR. 後輪に重量を集中させ、泥濘地でのトラクション(接地力)を確保
巡航速度. 20 km/h. エンジン回転数数百回転のため、これが物理的限界。馬の早足程度
駆動方式. 6輪2駆動 (後輪のみ駆動). 構造簡略化を優先。時速20kmならこれで十分な走破性を持つ
車体構造. チャンネル鋼(鉄骨)フレーム. 鉄道車両メーカーの技術転用。溶接ではなくボルト留め主体で頑丈
乗員数. 2名(前席)+荷台(2名または貨物). 最大4名乗車可能。屋根・ドアは鉄パイプと防水布で着脱式
全長 / 全幅 / 全高. 約 3.0m / 約 1.3m / 約 1.6m. 非常にコンパクトで、山道や狭い道でも運用可能
車両重量. 約 850 kg. 軽量だが、鉄骨フレームと焼玉エンジンは頑丈そのもの
燃料種類. 軽油、重油、魚油、粗悪油. 燃料を選ばない悪食。これが満州での最強の武器となる
始動方式. 焼玉トーチ加熱(必須). 始動前に焼玉を赤熱(約5分)後、フライホイールを人力で回す。冬季は必須作業
価格. 約500円〜600円程度(推定). 史実の九五式小型乗用車(約1,500円)の約三分の一以下の衝撃的な安値
2. 九四式六輪自動貨車(乙:焼玉仕様)性能諸元(1934年)
史実の九四式六輪自動貨車(いすゞ製ガソリン車)を「甲」とし、アカギ設計の焼玉仕様を「乙」として並行採用。
直列二気筒(5.5L)の焼玉爆発音と、中型以上の車両に採用された「サイドロッド(連棒)」が、後輪の2輪部分のみで発生します。
時速10kmでの約 95 dBと時速15kmでの約 110 dB、時速20km での約 118 dBという騒音です。
項目. 性能・仕様特徴・役割
エンジン. 直列二気筒 焼玉エンジン (約5.5L). クボタの大型発動機技術を転用。低速・大トルク
最大出力. 約 25 hp / 800 rpm. 低回転のため馬力は低いが、泥濘から這い出す粘り強いトルクを持つ
冷却方式. ホッパー冷却(水蒸気放出式). ラジエーターを排し、エンジン上部の水槽を沸騰させる。構造が単純
配置. RR. 空荷の状態でも後輪の接地圧を稼ぎ、悪路での空転を防止
巡航速度. 20 km/h. ギヤ比を極端に低く設定。歩兵の強行軍に常に並走可能
駆動方式. 6輪1軸駆動(後1軸のみ駆動)
荷台仕様. 木造・鉄骨補強. 汎用性を重視。
最大積載量. 1,500 kg (1.5トン). 弾薬箱、糧食、または完全武装の兵士12名を輸送可能
全長 / 全幅 / 全高. 約 5.0m / 約 1.9m / 約 2.2m. 史実の九四式(甲)とほぼ同サイズ。シルエットは武骨
車両重量. 約 2,200 kg. 焼玉エンジンのフライホイールと鉄骨フレームにより重厚
特筆装備. 屋根まで伸びた吸排気煙突. 渡河能力1.0m。一酸化炭素中毒防止を兼ねた「暖炉の知恵」
始動方式. トーチ予熱 + 手動クランク. 零下40度でもトーチで焼玉を炙れば、10分以内に確実に始動
3. 九四式八輪自動貨車(焼玉・3トン積)性能諸元(1934年)
1937年末までに1,550台が配備され、関東軍の第10・第14師団を「世界一鈍足だが、世界一確実に補給を受ける部隊」へと変貌させたモンスターマシンです。
自動車の駆動方式に鉄道の「連棒」を採用。
既存の1/5以下で、国鉄や満鉄が余らせている鋼材を叩いて作れるため、実質的な「鉄の重さ」だけのコストで、整備兵は油を注すだけで済みます。
20km/hで「ガチャコン、ガチャコン」と巨大な鉄の棒を振り回して進む八輪車は、舗装路でのタイヤ摩耗は激しいですが、「満州の荒野を這う」目的には適っています。
走行音は時速10kmで約 108 dB 。時速15kmでの約 118 dB と時速20kmでの約 125 dB になります。
項目. 性能・仕様特徴・役割
エンジン. 直列三気筒 焼玉エンジン (約9L). クボタの船舶用大型発動機を車載用に転用。極めて巨大なトルク
最大出力. 約 45 hp / 600 rpm. 低回転ゆえの圧倒的な粘り。泥濘地で3tの荷を積み、大砲を引いても止まらない
冷却方式. 蒸発式大型ホッパー冷却. ラジエーターなし。沸騰する水蒸気で冷却。満州の冬では「巨大な加湿器」となる
配置. RR. 後部4輪に荷重を集中。フロントは操舵に特化し、泥をかき分ける
巡航速度. 20 km/h. 八輪の接地圧を活かし、歩兵の行軍速度を「絶対に維持する」設計
駆動方式. 8輪後部4輪駆動 (8x2). 複雑な全輪駆動を避け、後部2軸の強力なトラクションで推進
最大積載量. 3,000 kg (3トン). 史実の九四式六輪(1.5t)の倍。250kg爆弾や重火器をパレット単位で輸送
全長 / 全幅 / 全高. 約 6.5m / 約 2.2m / 約 2.5m. 巨大。鉄道貨車のような威容
車両重量. 約 4,800 kg. 橋梁用バナジウム鋼フレームと巨大な焼玉エンジンによる重厚構造
特筆装備. 吸排気シュノーケル(暖炉煙突). 渡河能力1.2m。排気熱を荷台に回し、兵員の凍傷を防ぐ「煙突暖房」機能付
始動方式. トーチ予熱 + エアー始動(または複数名での人力). 巨大なフライホイールを回すため、圧縮空気ボトルまたは5人がかりの作業
4. 九五式装甲自動車(焼玉)性能諸元(1935年)
1935年(皇紀2595年)採用。史実の九三式装甲自動車が舗装路重視だったのに対し、泥濘突破に特化。九四式八輪自動貨車がベース車両。
九五式装甲自動車の場合、12mmの装甲板がエンジンとロッドの振動で激しく震え、巨大なドラムを叩いているような金属的な反響音が加わります。
9,000ccの爆発が、鉄骨フレームと装甲板に囲まれた中で行われると、音は内部で反響し、地面を叩く「地響き」へと変貌します。漁船のエンジンを知る者が聴けば、「なぜ陸から船の音がするのか?」と驚愕するはずです。
九四式八輪自動貨車よりも、騒音は 約 5 dB 大きくなります。
項目. 性能・仕様. 特徴・役割
エンジン. 直列三気筒 焼玉エンジン (約9L). 九四式八輪自動貨車と共通。徹底した部品共通化と信頼性確保
最大出力. 約 45 hp / 600 rpm. 低回転・大トルク。最高速度よりも「脱出能力」を重視
冷却方式. 蒸発式大型ホッパー冷却. ラジエーターレス。戦闘時の被弾による冷却水漏れのリスクを低減
配置. RR. エンジンが後部にあるため、戦闘室の床面積を確保
巡航速度. 20 km/h. 歩兵の移動速度に完全同期。常に歩兵と行動を共にするドクトリン
駆動方式. 8輪後部4輪駆動 (8x2). 構造簡略化。不整地走破性は、むしろ接地圧の低さと高トルクで確保
装甲厚. 8 mm 〜 12 mm. 小銃弾防御が主眼。傾斜装甲により、対戦車ライフルへの耐性も向上
兵装. 7.7 mm 九二式車載重機関銃 × 1. 砲塔に装備。時速20kmでの精密射撃を可能とする低振動設計
全長 / 全幅 / 全高. 約 6.5m / 約 2.2m / 約 2.8m (煙突含まず). 無骨だが、高い車高と煙突が特徴
車両重量. 約 7,500 kg. 鉄骨フレームと装甲板により重厚。その分頑丈
乗員. 4名(操縦手1、車長1、機銃手1、偵察員1). 車内は広大で、長時間の偵察任務にも対応
特筆装備. 吸排気シュノーケル(暖炉煙突). 最大渡河深度 1.2 m。 北満の河川や泥濘地を難なく突破
九四式八輪/九五式装甲自動車 走行騒音推定(単位:dB デシベル)
時速10km〜15km」こそが、実戦における最も合理的かつ「最強」の運用速度となります。
時速20kmはあくまで「舗装路でのカタログスペック」あるいは「緊急時の限界値」であり、満州の荒野や兵站維持においては、以下の理由から10〜15kmが常用域となります。
1. 騒音と「指揮統制」の限界(100dBの壁)
非常にうるさいですが、耳元で大声を出せば、あるいは手旗信号を併用すれば、歩兵や騎兵部隊との最低限の連携が可能です。
時速20km (120dB)前述の通り、聴覚が麻痺し、馬がパニックを起こすレベルです。これでは「護衛対象(車列)」が自壊してしまいます。
2. 兵站ドクトリン:歩兵の「強行軍」への最適化
歩兵の速度: 日本陸軍の強行軍は時速約4〜6km。10〜15km/hであれば、先行して陣地を構築し、後方から追い抜いて補給を行うという「反復横跳び的な往復輸送」に最適な速度差となります。
馬との共存: 10km/h程度であれば、馬も「異様な機械」として警戒はしますが、訓練次第で暴走を防ぎ、併走することが可能です。
アカギと石原莞爾が共有した「時速20km」という数字は、あくまで「馬を追い越せるポテンシャル」を示す象徴的な数字でした。
しかし、実際の満州の泥の上で、「ガチャコン、ガチャコン」と地響きを立て、兵士たちに安心感を与えながら確実に弾薬を届けたのは、時速12km前後で淡々と進む「鉄の象」のような姿であったはずです。
まさに「世界一うるさく、世界一確実に進む」モンスターマシンにふさわしい音量と言えます。




