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AFFS(アカギ・フライングマシーン・ファクトリー・ストーリー)  作者: あくまでもフィクションです。石を投げないで。
10/11

1934年 東京 羽田飛行場(新旧庁舎の狭間にて)

 羽田の駐機場には、開港時の面影を残す「木造の旧飛行場事務所」の低い屋根と、その隣に威容を誇る「円形意匠を取り入れた鉄筋コンクリート造の新旅客ターミナル」が並んでいました。


 その新旧の建物の対比を背景に、駐機場でも「新旧の航空思想」が火花を散らしていました。


「……まるで、あのアメリカの怪鳥(AFF)だけ、隣の新しいコンクリート庁舎から抜け出してきたみたいだな」


 旅客を待つ新聞記者が、新ターミナルのカフェテラスから駐機場を見下ろして呟きました。


 目の前には、旧来の木造庁舎の雰囲気に馴染む、繊細な木製翼のフォッカー スーパー・ユニバーサルが並んでいます。その横に滑り込んできた「AFF一九三二年型 三発旅客機(AFFタイプ32)」は、全金属製の機体に無数の丸頭リベットを光らせ、新ターミナルのモダンな白壁と不気味なほど共鳴していました。


 フォッカー三発機は機首エンジンと翼エンジンの高さが同じ。AFF三発機は「地上高の確保」や「視界の確保」を優先して段差がつけられていました。翼上エンジンをわずかに3度上へ向け、機首エンジンを5センチ下へ下げられています。


「記者さん、見た目に騙されちゃいけない。あの機体は『モダン』なんてもんじゃない。もっと泥臭い代物だよ」


 タラップを降りてきた日本航空輸送のベテラン操縦士が、新ターミナルのモダンな自動ドアを背に歩み寄ってきました。


「あそこのフォッカーを見てくれ。あいつはあっちの古い木造庁舎がお似合いだ。芝生の滑走路と、腕の良い職人の整備。それがあれば最高に優雅に飛ぶ。だが、今の羽田は見ての通り、急ピッチでコンクリートを流し込み、無理やり滑走路を広げている最中だ。雨が降れば新旧の工事跡が混じって、足元は底なしの泥沼になる」


 操縦士は、自機の「翼の上に載った二基のエンジン」を誇らしげに見上げました。


「あのフォッカーは、跳ね上がった泥を吸い込めば一発でエンジンが止まる。だが、このAFF機は違う。主翼という『防壁』の上に心臓を逃がしてあるから、どれだけ足元がぬかるんでいようが、コンクリートの破片が飛ぼうが、悠然と離陸できる。……建物がコンクリートに変わるように、空の旅も『冒険』から、あんな不格好な『インフラ』が支える『日常』に変わるのさ」


 記者は、新ターミナルの硝子窓に映る、段差のある三発機のシルエットを見つめました。


 優雅なフォッカーが旧時代の木造建築と共に過去へ押し流されようとする傍らで、無骨なAFF機が、コンクリートの新しい羽田に君臨し始めていました。


 それは、日本の航空機が「芸術」であることを止め、新時代の「社会基盤」へと変貌したことを象徴する、羽田の昼下がりの一幕でした。


 記者は、新ターミナルのカフェテラスから二機を見比べました。


 優雅なフォッカーが、羽田のぬかるんだ工事跡を避けるように慎重にタキシングする一方で、AFF機は巨大な3.6メートルプロペラが巻き上げる風で泥を主翼の下に叩きつけながら、地響きと共に滑走路へと向かっていきました。


「フォッカーは『空の美学』を語り、AFFは『物流の数字』を語る……。勝負は、離陸する前から決まっているな」


 記者はそう呟き、コンクリートの新庁舎を背景に、異形の三発機が力業で空へと這い上がる姿を手帳に記しました。


1934年:三発輸送機 性能諸元比較表


項目フォッカー F.VIIb/3m. AFF一九三二年型(タイプ32). 備考

機体構造木金混合(翼は木製合板). 全金属製・モノコック. 耐久性と耐候性の差

エンジンライト「ホワールウィンド」×3. AFF 1930 750HP(民間型)×3. AFFは圧倒的馬力

エンジン配置翼下吊り下げ(標準). 翼上配置(AFF式). 泥濘地・水害への耐性

合計出力660 hp (220×3) 2,250 hp (750×3). AFFはフォッカーの3倍以上

自重 / 全備重量3,100kg / 5,300kg. 6,500kg / 11,500kg AFFは約2倍の巨体

乗客数8〜10名. 14〜18名. 大トルクによるペイロード

巡航速度170 km/h. 240 km/h. 効率より「力業」の速さ

燃料指定73〜80オクタン(推奨). 60オクタン(許容). 粗悪燃料でも定時運行可能



日本航空輸送・技術部による比較評価(1934年)


1. 「芸術品」と「重機」の差

「フォッカーは、欧州の洗練された航空理論が結実した『空の芸術品』である。木製翼は軽く、220馬力のエンジン3基で優雅に舞う。しかし、日本の高温多湿な気候では木製翼の歪みが激しく、また野戦飛行場の泥濘では、翼下に吊るされたエンジンが泥を吸い込み、故障が頻発する。対するAFF機は、空力的な優雅さを捨て、翼の上に750馬力もの『重機用エンジン』を3基載せた。これはもはや飛行機ではなく、空を飛ぶ貨物列車である」


2. 稼働率という名の勝利

「フォッカーは80オクタンの良質なガソリンと、熟練工による日々の調整を必要とする。一方、AFF機は60オクタンの泥水のような燃料でも、AFF 1930 750HP(ハ一型)特有の『低回転大トルク』で強引に離陸し、丸頭リベットの無骨な翼は雨ざらしでもびくともしない。新設された羽田の新ターミナルがコンクリートで『永久不変』を目指すように、AFF機もまた、天候や環境に左右されない『空の定時運行インフラ』としての地位を確立している」


3. 総評

「旅客はフォッカーの静かな飛行を好むかもしれない。しかし、経営側が選ぶのはAFFである。圧倒的な馬力による余裕は、一発停止時でも安全に高度を維持し、泥だらけの辺境地でも着陸を拒まない。航空輸送が『特権階級の冒険』から『大衆の物流』へと移行する今、我々が必要とするのは、繊細なフォッカーではなく、この不格好なAFFの巨躯である」


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