Memories
一夏は小学生からの幼なじみで
今年から同じ大学に通っている
高校の時は近所のマックで一緒にバイトもしていたし
家族旅行は一夏の家族と一緒に出かけていた
いつも顔を合わせるのが普通 そんな存在だった
大学に入ったら海に行こうと 一夏から誘われていた
けど 何度かキャンパスで挨拶を交わしてから
しばらくは会っていなかったし 彼女との約束も
どこか 遠い記憶のように感じていた
そんなある秋の日 いつものように退屈な授業も終わり
右手に王将を見ながら商店街を歩き
京成大久保駅でぼーっと空と電車線を眺めながら
電車を待っていた時に ふいに後ろから声をかけられた
一夏だった
『お昼って外に出てたの?
声かけようと思ったけど 周りに友達がいたからさ』
『そーなんだ?全然気が付かったよ
最近すっかり寒くなったなぁ』
わざと 話をそらした
『ねぇ いつ 海に連れて行ってくれるの』
『海?そんな話してたっけ?』
わざと すっとぼけた
『まあ もういいんだけどね』
すでに乗り込んでいた電車の景色を眺めながら
彼女はそう言った
もういい.....ぐるぐると頭の中を回る.....
『もう いいなら いいんじゃない?』
『まあね.....』
それからずっと2人は黙ってて
俺はウォークマンでリックアストリーを聴きながら
車窓から見える夕暮れの街をぼんやり眺めていた
しばらくして 一夏が俺の肩をトントンと叩いた
『ねぇ 明日 二人で行ってみない? 海に...』
秋の午後の海は静かで
波の音しか聞こえてこなかった
そんな海岸で彼女は 無邪気に遊んでいた
砂に書いた俺の名前のスペルを間違えているのは
昔から知っている一夏らしかった
『また 来たいな』
夕陽を背に振り向いた一夏が言った
また来よう 素直な言葉が頭をよぎる
『.....次は彼氏と来なよ』
『...そやな.....』
一夏はちょっとうつむいて
苦笑いするそぶりをしながら そう答えた
それから一夏はずっと黙ったまま夕陽を眺めていた
昔から知っているはずなのに
夕陽を眺めている一夏は 自分よりもずっと大人で
自分には手が届かない美しい女性のように見えて
しばらくは声をかけることができなかった
そんな憧れに近い感情から
後悔という感情に変わっていく自分が
もの凄く子供で みじめに思えてならなかった
苦い想い出だけを残した湘南の海
今年も秋が終わりに近づき
もうすぐ 冬がやってくる




