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サムライ令嬢、抜刀!  作者: 藤平クレハル


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第七話 サムライ令嬢、相棒と話す

「…………ん」


 重たいまぶたを頑張ってこじ開けると、網膜を室内の暖かい灯が突き刺す。


 見上げる天井に一瞬戸惑うが、泊まっている宿の物だと気づくと同時、徐々に寝起きの頭がはっきりとしてくる。そうだ、アタシは―――。


「おや、目覚めたかい?」

「…………………………叫ばなかったアタシの理性を褒めてほしいのだけれど」

「ごめんごめん。君の寝顔を見れたのはとても嬉しいけれど、別にそういう意図はなかったんだ。ただの見舞いさ」


 なにが悲しくて寝起き直後に見るのがこの国の王子、ジークフリートの顔なのか。


 アタシの表情がよっぽど嫌そうだったのか、少し傷ついた顔のジークフリートを見て、改めてなんでこんなとこにいるのかと疑問を浮かべる。


 第一、鍵は掛かっているはずなのに、この宿のセキュリティはどうなってるのだ。


「ああ、鍵はね。僕が心優しい第三王子であることは街の人間もよく知ってくれているから。顔パスというやつさ」

「みんな騙されているわよ!?」


 こんな胡散臭そうな奴でも、そんなことになるのはやはり王族という特権階級が故なのだろう。なんとも腹の立つ話だ。


「そんな目をしないでくれよ。ここまで運んであげたのは僕なのだし、これでもこの地位のことは多少疎ましく思っているくらいなんだ」

「いらないなら、アタシが貰ってあげるわよ。というかヘンなところ触ってないでしょうね」

「――――――。面白いことを言うんだね、君は。いや……、とりあえず本題に入ろうか」


 今の話に面白いポイントなんてあったかしら。質問に答えなさいよ。それより本題ということは、話すべき内容を持ってやって来たということか。


「他でもない。君の試験結果についてだ」


 ……そういえば、試験の途中で気を失ったのだったか。そのことを思い出した途端、冷や汗が伝う。


 第二試験で終わりだったのなら良いが、もしその後も試験があったのなら、アタシは途中で棄権したとなってもおかしくはない。


「ア、アタシは今からだって、もう一度試験を受けられるわ! というか受けさせなさい!」

「待ちなよ、サクラ。何を勘違いしたのか知らないが、君は合格さ。文句なしにね」

「ごう、かく?」


 思考が言葉に追いつかない。こんな無様を晒したのに合格したのか、アタシは。


「もちろん。なにせ、試験の上でのこととはいえ、“五天”と称される存在の一角を倒したんだ。これはあり得ないくらいに素晴らしい結果だからね。当然、学園は君を欲しがっているわけさ」

「そ、そうなのね」


 正直、最後どうやって勝ったのか記憶が曖昧なのだが、まあいいか。復讐を果たすためにも学園には必ず入学して、国の上層部に近づくのは必須だと思っている。入学できるのなら文句はない。


「それと、もう一つこれは僕の個人的な興味なのだけれどね」

「なによ」

「君の刀について訊きたいことがあってね」


 アタシの刀?


 これは自分で鍛えた武器で、そんな注目されるような代物じゃないと思うのだけれど。


「桜色の刀紋は確かに我ながら綺麗にできたと思うけれど、武器としては平凡なはずよ?」

「僕を馬鹿にしているのかい? 王族としてさまざまな武具を視てきたからわかるよ。その刀は、“五天” が受け継いできた"始祖武具オリジンアームズ"に引けを取らない力を備えている。似た力を持つ武器も知っているんだ」


 そんなことを急に言われても。作るための基本的な技術は師匠ミヤモトに教えてもらったが、鍛える際のエッセンスは自分で練り上げた物だ。つまりオリジナル。〈オリジンアームズ〉とやらの真似をしたわけでもない。


「本来なら一個人が鍛造できるような代物ではないはずなんだ。自分で作ったというが、君は本当に何者なんだい? それだけ強力な武具を作れる存在なんて、王国の歴史の中でも一握りしか存在しないはずだ」


 マズい。


 よくわからないが、これはきっとアタシの出自に関わる核心に触れる話だ。子どもの頃の記憶が曖昧だが、わかる。この話を深掘りされるのは絶対に良くない。


「……実は、アタシも自分自身のことをよく覚えていないのよね。幼い頃に家族が皆殺しにされて、一人だけ生き残ったから。その時のショックでそれ以前の事を全然覚えてなくて」

「そんなことが……。嫌なことを思い出させてすまない。なら、これは心に留めていてくれ。あの刀は恐らく真銘を解放していないのにアレだけの力を見せている。扱いには気をつけなよ」


 真銘? ああ、武器の名前のことか。そういえばまだ決めていなかったわね……。後で適当に付けておこうかしら。


「話したくないなら、今は無理に訊かないよ。だが、僕は君の味方になりたいと思っている。それは信じて欲しい」

「はいはい。用件が済んだらさっさと帰ってちょうだい」

「それだけ元気なら安心だね。じゃあ、また学園で会おう」


 どこか話し足りなさそうな様子で、ジークフリートは部屋から出て行った。まったくあの王子さまストーカーの気があるんじゃないかしら。


 さて、と。


「入学できることになったのは良かったけど、アタシなんで無事なのかしら……。確かあのエルフの炎で焼かれた気がするんだけど」


 服も燃えて半壊していた気がするが、見る限りなんともなさそうだ。どうなってるのだろう。


【あら。あの商人さんたちも言っていたじゃない。特別な素材で織られているって。あたちが見るかぎりたぶん〈フェーニクス〉ね】


 〈フェーニクス〉って……確か、火山や灼熱砂漠に棲息する超回復能力を持つ大鳥だったはず。その素材となればこの回復力はそれに由来すると思えば納得はできる。


 って……。


「だっ、誰の声!? い、今脳内に変な声で話しかけられたような気が」

【あら、ごあいさつね。あなたとずっと一緒に戦ってきた相棒にむかって】

「相棒……? アンタ、まさかアタシの刀……!?」

【そうよ。あたちはあなたの刀。名前も付けてもらってないから名乗ることはできないけれど】


 まさか名前がないことを刀自身に責められる日が来るとは夢にも思わなかった。いやそうじゃなくて。


「なんで刀がしゃべってるのよ」

【なんでって。あなたが想いを込めたからよ。再現はできない一度限りの奇跡で生み出された武器、それがあたちなの】

「そ、そうなのね」


 よくわからないが、この現象はさっきジークフリートが話していた〈オリジンアームズ〉、“始祖武具” の話と関係がないとも思えない。どうしたものかしら。


「…………まあ、ひとまずいろいろ考えるのは後回しね。疲れたし寝るわ」

【えー。あたちの名前はー?】


 また今度ねと脳内に返事しつつ、アタシはそのまま温かい布団へ潜り込んで二度寝を決め込む。無事に騎士学園への入学が決まった安心感からアタシは深い眠りへと誘われていくのだった。


 復讐計画を果たすための準備は順調に進んでいる。今のところは、だが。

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