第三話 サムライ令嬢、注目を集める
そんなこんなで騎士学園の入学試験当日。
この五日間で王都のことは少しわかった。最低限の入学準備もできたし、あとは無事に試験をクリアすればまずはスタートラインに立ったと言える。
「それにしても、なんかさっきから視線を感じるわね……」
敵意や害意ではなく、どっちかというと好奇心というかなんか良い方向性の感情を向けられている気がする。自意識過剰かしら。
いつもと違うのは、街道で会った商人夫婦からもらった洋服に着替えていることくらいだ。
赤を基調とした生地に、鈍色の装飾。身に着けていても動きを邪魔しない軽さと、着心地の良さ。それに加えて、着ていると体の芯からとっても暖かな熱がこみ上げてくる。きっととても良い素材を使っているのだろう。少し脚が出すぎな気もしないでもないけど、動きやすいからいっか。
そして、去り際に服と一緒に渡された革靴も履いている。こちらも軽いのに走っても足を痛めず、よく馴染んでいる。まるで最初からアタシのためにあつらえられたようだった。
「……今度またお礼をしないとね」
その為にも、まずは試験合格が最低条件だ。
「ここが騎士学園……。〈リッターガルテン〉か」
王都の真ん中に位置する巨大な学び舎。かつてこの地域、ひいては世界を救った勇者の一人が創立した巨大教育機関。もっとも魔王なんて御伽噺の存在になって久しい今は、貴族の息女たちが通う格式ばった伝統校のようになっている。らしい。
まあ、宿の主人から聞いた受け売りだけれど。
受付を済ませて待機場の教室に進むと、そこにはすでに何人もの受験者が居た。男女比はだいたい同じくらい。いずれも美男美女。さすが貴族の縁者なだけある。山育ちのアタシとは住む世界が違う感じ。
「……ううん、アタシは奪われたんだ。だから……必ず……」
「あれれ~。どうしたのお? そんなこっわい顔してえ」
「え?」
いつの間にか。適当に座った座席だったのに、その横に同じく座っている少女がいた。驚いたことにこれだけ近づかれても気配をほとんど感じなかった。すごい。
「あはは。驚いたあ? あーし、ルルミラ。ルーフェ領統括役子爵家の四女で、魔法騎士見習いよ、よろしくねん♪」
「え、ええ。アタシはサクラよ。よろしく」
「うんうん、よろしくぅ! あんた珍しい武器持ってんねえ。カタナってやつでしょう?」
「あら、博識ね」
騎士が持つ武器はこの国では剣が主流だ。槍や手甲、弓などといった武器種も使われることはあるが、基本的にはみんな剣類を好む傾向にある。
これは、初代勇者たちがその能力に関わらず剣を携えていたという逸話から来ていて、学園に存在する五クラスもそんな勇者たちの伝説になぞらえているという話だ。学園の紹介パンフレットに書いてあった。
話しかけてきた少女―――、ルルミラといったか、彼女は魔法騎士と名乗っていた。五クラスの内の一つ、魔法という超常の理を用いて戦うクラスだったはず。そんな彼女の腰にも細く長いレイピアタイプの剣がぶら下がっている。
「ねえねえ、聞いてるう?」
「えっ。あ、ごめんなさい。ついぼうっとしていたわ、なんの用だったかしら?」
「もう~、ちゃんと話を聞いておいてよお。それでねっ、今回の入学試験どう? ぶっちゃけ自信アリ!?」
「それはもちろん、自信はあるわ」
貴族の娘というにはあまりにもノリが軽いルルミラに戸惑ったが、この娘はライバルの動向が気になっているということなのだろう。まあそれはみんな同じだろう。
軽く見渡しても、誰もかれもが横目で互いのことを伺い、牽制しあっているように感じる。
「ふっふっふ~。いーい気迫だねえ、サクラさん♪ けっど、気を付けた方がいいよん。今年は “五天” って呼ばれる天才世代が入学する予定だからねえ」
「へえ……。強いの? その人たち」
「えええええ!? 彼らのことを知らないなんてモグリだよお、サクラさん!!」
どうでもいいけどちょっとうるさい。他の受験生から変な注目を集めてしまうじゃない。
「“五天” はねえ、今の若手の騎士見習いの中で最も優れた成績を、いろんな大会で残してるんだよっ! それぞれが各クラスのスペシャリストなんだから!」
「そんなに強いのね……。人数的に各クラスに一人といったところかしら?」
「イグザクトリぃ♪ あっ、ほらほらあ。噂をすればなんとやら、よん」
「お、おい。あれって!」
急に教室中がざわつき始めた。ちょうどルルミラが指差した方をみんなが見つめている。
大勢の視線が向いた先には、一人の美少年がいた。ふわっと柔らかげなブロンドのショートヘアに、透き通るようなサファイアの瞳。十人中十人に尋ねれば、その全員が言葉を尽くして褒めそやすだろう美貌の少年だった。
のだが。
「あれが、“五天” の中のトップにして、この国の第三王子サマ! ジークフリート=トワイライト=バルトゥング殿下よ!」
「うげ」
色めき立つ周りの人間とは違い、アタシはただただ驚きと、苛立ちと、ほんの少しの悲しさを覚えて固まっていた。
「どったの、サクラさん。鳩が豆鉄砲を食ったようなかおになってるよん?」
「気にしないでルルミラ。嫌なことを思い出しただけだから」
「……おや?」
取り巻きが抑える中、それでもなお多くの学生に囲まれている美少年王子ことジークフリートだったが、唐突にこちらに気づいた様子で振り返った。最悪だ。こっち見るな。
「おやおや、この前はどうも。本当に来たんだね。歓迎するよ」
しかも近づいてきて話しかけてきたんだが。
「……はぁ。この状況でアタシなんかに話しかけるのは、さすがにどうかと思うわよ王子さま王子さま」
「なんだもう知っているのかい。折角後でネタ明かしをしようと思っていたのに、残念だよ」
ええい。いつまで会話するつもりなのよこの子。いい加減、周囲からの刺々しい視線に気付いてほしいのだけれど。針のむしろとはまさにこのことだわ。
「はいはい……。ほら、そろそろ試験も始まるんじゃないかしら。アタシは少しお手洗いに行ってくるわね」
「あ、待ちなよ」
強引に話を切り上げて、席を立つ。後ろからルルミラを筆頭にほかの受験者たちが話を聞かせろと追いかけてくるのをかわしながら、試験開始を待つ羽目になった。ほんっとうに勘弁してほしい。
「アイツ面倒ごとを押し付けてくれたわね……。それに、王子さまって……勘弁してよ……」
数日前、路地裏で言葉を交わした時、少しだけ感じた楽しさというか仲間意識はもう跡形もなく消し飛んでいた。
王族。上に立つ者。そして、おそらくアタシの仇に関係がありそうな人間の一人。
気が早いかもしれない。だけど、もしこの試験中に戦うなんてことがあれば―――。
「絶対に負けない」
己の強さを驕り、光の下を歩く者たち。そのことごとくを凌駕して、アタシは必ず復讐を果たしてみせる。
今日はそのための第一歩だ。




