第十四話 学園生活、闘いの先で
人気がなくなった学園の中庭。真昼間だというのに、まるで深夜のように深く昏い暗黒が帳を下ろす。
目の前に立つ金髪紅眼の少女、ディアナレナの仕業であることは明白。そしてそれは、彼女が発動した “始祖武具” の力なのだろう。だが、今までの二人とは違う。
「アンタ、どこに武器を持っているっていうの……?」
「驚くよネ、当然。けれど、アタイの武器は簡単には視えないのサ!」
「くっ!」
勘だけで目線の高さまで構えた刀が、またもや不可視の攻撃で弾かれる。幻の類にしては、あまりにも重い打撃。距離を開けさせられる。
間髪入れずに、無数の鋭い刺突らしき攻撃が、辺り一面に穴を穿つ。乱撃に織り交ぜられた本命の一撃。しかし、今度はタイミングを合わせられた。受け止めずに、いなし、一歩前へ。
「へエ。アタイの攻撃を見て、喰らって、それでもなお前にでるかイ。見込んだ通りだヨ!」
「それは、どうも!!」
踏み込んだ足で地面を蹴立てて、彼我の距離をいっきに縮める。
槍のように引き絞った〈桜鐡〉の切先を鋭く突き込む。それも不可視の壁に阻まれ、ディアナレナには届かない。
だが、それも織り込み済みだ。
「我流剣技、攻術。捌の型、“螺子釘”!」
不可視の壁と刀を触れ合わせたまま、手首、肩、そして胴体の回転を以て螺旋の衝撃を刺突へ換えてディアナレナへ叩き込む。
ダメージを与えられたかは微妙なところだが、それでも、確かにその体を退がらせしめた。
「面白い技を使うネ。なら、こちらもギアを上げようかナ!」
「こっちもまだまだいけるわよ!」
ディアナレナの身体から真紅の粒子が吹き荒れる。粒子、いや、これは。
「血……!?」
「よくわかったネ、良い眼をしていル。けれど、わかっても無駄だヨ。〈自在変夜〉、ゲシュタルト・ツヴァイ “ファルバイル”!」
血の粒子がディアナレナの右手に収束する。生み出されたのは身の丈以上の大きさの、ギロチンのような片刃剣。
「いくヨ!」
踊るように、舞うように、金髪が跳ねる。
質量など無いかのように片刃剣を振り回すディアナレナの動きを見極める。あの武器の大きさでは、刀で下手に受けるとただではすまないだろう。なら…!
「反撃術、壱の型。“合鋏”!」
「ハサミにはハサミ、かナ。ゲシュタルト・フィアー “ヘクセン・シェーレ”!」
刃同士が触れる寸前、ディアナレナの武器が形を変える。構成された血の粒子が生物的に蠢き、こちらの刀を挟み込むような鋭利なハサミのような姿へと変わった。
【避けて、おねーちゃん。アレは不味いわ】
「!」
脳内の声に応じてすぐに刀を引く。ガキンと硬い金属音が鳴り響き、生み出された余波だけで足元をすくわれそうになる。
「むっ、どうして避けれたのかナ? 武器の声でも聞こえタ?」
「っ。どうして、そんな事を……」
「あハ、図星だネ!」
動揺が剣筋を鈍らせる。閉じた状態の大ハサミを剣のように叩きつけられ、受け身を取りつつも遙か後方へ弾き飛ばされた。
幸い開けた中庭で、空中で身をよじるくらいの時間はあった。姿勢を整えて校舎の壁に足をつけ、すぐにたわませた脚を伸ばし切り、全力で壁を蹴りつける。
滑るように空中を滑空しながら、ディアナレナめがけて刀を構える。どうにも出し惜しみしている場合じゃないらしい。こんな常識はずれの相手では攻撃を当てられても一発が限界だ。
息を深く吸う。右手に持つ相棒に力を込め、意識を研ぎ澄ます。
「我流剣技、模倣居合術。“一閃” ―――」
大ハサミを広げて待ち構えるディアナレナがニヤリと嗤う。こちらの刀をへし折ろうという魂胆。だけど壊れるのは向こうだ。
「“ 氷息”ッ!」
刀がハサミの内側に触れた瞬間、刃に宿った冷気が胎動する血の粒子を止めて凍らせる。形を維持できなくなってボロボロになった所を、振り下ろした斬撃が砕き折った。
「むッ」
「逃がさないわよ」
残心を生まずに、クルリと回して上を向いた刃をそのまま振り抜く。返す刀だが、わずかに顔を逸らされただけで避けられる。けれど、これも読み通り。狙いは。
「重ねて模倣攻術。“一文字改―――」
「やらせないヨ。ゲシュタルト・フュンフ、」
ディアナレナが真紅の粒子を束ねて新たな武器を生もうとする。対するこちらは刀を最上段に振り上げていて、隙だらけ。
数秒後には確実に反撃される。
だからこの一刀に全力を乗せる。
天気雨の中で刹那に轟く雷鳴が如く。
「降りて、断て。嘶くのは今! “雷狐閃尾”ッッッ!」
「が、ッ、ァアアアアアア!?!?」
天より刀身へ吸い寄せられた雷が刃と同化し、その長さを伸ばす。高密度のエネルギーが凝縮された刀が、振り下ろしを超加速させる。
ディアナレナが武器を手にするよりも速く。落雷が斬撃の威力へと変換され、後ろの地面ごと彼女の胴を焼き切った。
一拍遅れて響き渡った炸裂音とともにディアナレナはよろめき、その場で崩れ折れる。全身から血生臭い、焼けこげた匂いを孕んだ煙を上げているのを見て、アタシは構えを解きつつ徐々に我へ返った。
「お、思わずやりすぎちゃった……。ちょっと大丈夫!? 生きてる!?」
近づき様子を伺うように手を伸ばすと、ディアナレナの焼け焦げた体がピクッと動く。
かと思えば。
「く、ハハハハハハ! さっすが魔王の大おばさまの力を継ぐ者! 良き一撃を馳走になっタ!」
「え、えええええええ!?」
死んでいてもおかしくないほどの傷を負っていたはずのディアナレナの肉体がみるみるうちに治っていく。
爛れた肌は純白を取り戻し、煌めく金髪が頭皮から生え伸びる。血のように紅い瞳にも光が戻り、瞬きほどの時間でディアナレナは完全復活していた。
「ど、どうなってるのよ」
「驚くことじゃなイ。超再生など、我ら吸血族にとっては昼飯前だワ」
いやそれを言うなら朝飯前、っていうか、本当にあの瀕死の状態から蘇ってる……。どういう種族なのかしら吸血族。
「さて、驚いているところ悪いけれド。少し付き合ってもらうヨ、魔王の後継者」
「さっきから言ってるその魔王ってなんのことなの?」
「それについても話すワ。君の知りたいことに関係あるはずサ」
ディアナレナがなにを知っているのか非常に気になるけど、それよりも。
「アンタね……」
「?」
「いつまで裸でいるつもりなのよー!?」
首を傾げる全裸少女を前に、頭を抱えるアタシの絶叫が、元の色を取り戻した青空に吸い込まれていくのだった。




