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サムライ令嬢、抜刀!  作者: 藤平クレハル


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第十二話 学園生活、真実を求めて

「ふぁあああ……」


 眠い。死ぬほど眠い。


 眠い中でも刀を振るう。一振り、また一振り。一度振るごとに意識が冴え渡っていくのを感じる。流れ落ちる汗をぬぐうこともせずに、雑念は払い、刃に心を預ける。お山での修行で幾度となく繰り返してきた、基本型の無心での繰り返し。


 毎朝のルーティーンと化している鍛錬。頭を使った後は、この単純な動きが心地よい。


 と、いうのも……。


【夜遅くまでお勉強だなんて偉いわね、おねーちゃん】

「うるさいわね。まったく、なんで試験勉強なんてしなくちゃならないのよ……」


 そう。今週末にある試験のために長時間の勉強。それが強烈な眠気の原因だった。別に学ぶのは嫌いじゃないけど、さすがにこの十年馴染みのない理論だとか歴史だとかを脳に詰め込むのは骨が折れる。


 だけど仕方がない。十年間ずっとお山で師匠と修行ばかりしていたのだから。


【おねーちゃん、頭は悪くないから大丈夫よ。きっと】


 だといいんだけどね。


 なんにしても慣れないことをするのは時間は掛かる。だから、朝一番からこうして刀を振るって鍛錬しているわけだが。


「朝から元気だねえ」

「………気が散るから、他所にいってくれないかしら。王子さま?」


 どういう理由か知らないが、宿の裏庭で鍛錬をしようとしたらジークフリートが先回りしていた。いやもう普通にプライバシーの侵害だろうこれは。


「自分で言うのもなんだけれど、うら若き乙女の住む場所に朝っぱらからやって来るとか変な噂が立つわよ?」

「噂?」

「ええ。アンタがアタシに気がある、とか」

「あははっ、ないない」


 速攻で否定したわね。別にいいけど、少し傷つくわよ。


 それにしても、人前で鍛錬を見せるのはなんだか恥ずかしいのも事実。もっともこの十年間、他人と呼べる存在は師匠しかいなかったから仕方ないけど。


「というか、今日は何の用なのよ。ジークフリート王子」

「固いのは無しだよ。ジークでいい」

「……まあ、アンタがいいなら」


 あだ名というか、愛称というものだろうか。なんだかくすぐったい。


 というか、一国の王子さまがこんな気安い感じでいいのだろうか。思っていた感じとは違う。なんせアタシの仇は、その王国そのものかもしれないのだから。こんな気の抜けたやり取りをしていると、なんというか調子が狂うというか。


「おーい。聞いているかいサクラ?」

「っと、ごめんなさい。ちょっとぼうっとしてたわ。なんだったかしら」

「仕方ないなあ。もう一度訊くよ。体の方は本当に大丈夫なのかい?」


 ああ、そのことか。あの日、ダンジョンアタックの授業中に遭遇したアウルスとの死闘。ヴィが来てくれなかったら、きっとアタシは死んでいた。それほどのダメージを負っていたのだ。


 証拠に、ダンジョンを出てすぐにアタシは気絶してしまったらしく、あとで泣きじゃくるルルミラとメイリンにあり得ないくらい怒鳴られた。


【無茶するからよ。真銘の解放と、技の行使。いっぺんにやるとは思わなくてあたちも焦ったわ】


 そんなこと言われたって。あの時は無我夢中で、目の前の敵を倒すことだけに集中していたから。


「サクラ?」

「はいはい、アタシは大丈夫、ピンピンしてるわ。それより、ダンジョンでアタシを襲ってきた監察官ってやつのことだけど」

「ああ……。王国の人間として詫びるよ。まさか学園を見守るべき側の人間に、禁呪を操る異端者が混ざっていたとはね」


 そういえば、それも報告してたんだっけ。包み隠さずに話したけど、まさかまともに取り合われるとはね。てっきり揉み消されるとばかり思っていたわ。


「王子さまとしては、どうするつもりなのよ。あの男を監察官とやらに選んだのは学園側、ひいては王国の責任問題でしょうに」

「言ってくれるねえ、サクラ。安心しなよ。既に全監察官への諮問は終わっているし、例の男が言っていた魔王の力、禁呪についても調査中さ」


 ジークはいつもの飄々とした笑みを崩さずに、答えた。まあ今は変に疑う必要もないし、素直に結果が出るのを待った方が良さそうだ。


 話の流れで、一つ頼んでみようと思っていたことがあったのを思い出した。


「ねえ、ジーク。お願いがあるんだけど」

「なんだい? 最初に言っておくけれど、結婚以外の頼みなら聞けるよ」

「黙りなさい。いや、えっと、アタシを王国の図書館に入れるようにして欲しいのよ」

「王国大図書館に? 騎士見習いなのに、あんなカビ臭い場所に行きたいなんて珍しいね」


 もちろん、そんな所に行きたいのは目的があるからだ。だが、それをジークに話すことはできない。


 器用な嘘も思いつかないから、今はこう言うしかない。


「試験勉強に、学園の図書室だけだと足りなさそうでね。せっかくだから大きいって噂の図書館に行ってみたくなったのよ」

「…………なるほどね。いいよ、その程度なら僕の権限で許可証を出してあげよう」

「ありがとう、ジーク」


 よし。これは大きい。情報収集が捗るというものだ。


 この日はそんな約束を取り付けて、アタシはまた鍛錬に戻ったのだった。


      ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 数日後。


 ジークの案内を受けて、アタシはバルトゥング王国で最大規模の蔵書量を誇る図書館、〈ヴァイスハイトハイム〉を訪れていた。


「大きいわね……」

「あはは、なにせ王国の歴史に始まり、多くの貴族の歴史なんかの情報、そして伝承についても保管されているからね。生半可な蔵書量じゃあないよ」

「その中に……、王国で起きた事件や出来事の資料もあるのかしら?」


 ジークは一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに頷いた。


「もちろんさ。個人情報に関わる部分はさすがに騎士団などの限られた組織しか閲覧できないけどね」

「ふぅん」


 今はそれでも十分だ。アタシが知りたい事は一つ。あの日、領地で起きた事件についてなのだから。


「それじゃあ、僕も適当に調べ物だけして帰ることにするよ。サクラも根を詰めすぎないようにね」

「はいはい。ありがとう、ジーク」


 早々に退散したジークを見送り、アタシは棚の中断あたりに埋もれているお目当ての本と向き合った。


【バルトゥング王都内乱事変集 新暦1980〜1999】


「これね……」


 長いこと誰にも読まれていなかったのか、重い埃を被った古くさい一冊を棚から抜き出す。


 簡素な装丁の表紙を捲り、目次からお目当ての時代や地域を探す。1989年、王国南部湖畔地域で起きた領地襲撃事件……。いえ、領主暗殺事件……。


「……………………。載ってない」


 嘘だ。アレだけの虐殺が行われ、領地は今でも荒れ果てたままのはず。アタシの家はまがりなりも辺境の領主、つまり貴族だった。そんな扱われ方が、貴族の力が強いこの国で許されるわけがない。つまり、アタシの敵は予想通り――――――。


「国そのもの、か。もみ消した、ってわけね……」


 本を持つ手に力がこもる。今すぐに近くにいるであろうジークを締め上げて話を聞きたくなる衝動を抑えこむ。ダメだ、今そんなことをしてはすぐに手詰まりになる。落ち着けアタシ。落ち着きなさい。


「お姉さん、顔色が悪いけど……。だ、大丈夫?」

「!」


 全く、気が付かなかった。声は、少し離れた横の席の方から聞こえてきた。


 黄金のようにギラギラと輝くツインテールに結ばれた金髪、血のように深いワインレッドの瞳。それだけの鮮やかさを持ちながら、しかし気配は驚くほどに薄い。


 なんともアンバランスな、そんな薄幸の美少女といった雰囲気の女の子が、そこに座っていた。

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