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サムライ令嬢、抜刀!  作者: 藤平クレハル


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第十一話 学園生活、初の共闘

 まるでそれは、神が地上へと投下した雷霆らいていのようで。


 いくつもの青白い雷電の弧を帯びたエネルギーが集束された光柱が、その熱でもって床に大穴を穿つ。飛散する瓦礫すら融解し、衝撃波で敵味方問わず等しく吹き飛ばされる。


 当然こちらに射出されていた触腕は、余さず焼き払われて塵と化していた。圧倒的なまでの火力。急展開すぎて頭がついていっていない。


 それはアウルスも同様で、こちらを攻撃することも忘れて呆然と上を見ていた。しかしそれは、攻撃の主が誰か知るが故のようで。


『な、なぜ貴様がここにいる……。“五天” の一人、科学テックを司る騎士、“雷天” ヴィクトリア=アルハンギェリッ!!』


 そう呼ばれた相手は、あろうことかアタシたちの真上に、どういう原理か()()()()()


 逆光でちゃんとは見えないが、背中から一対の鋼の翼が生えているのが、シルエットでわかった。翼の羽と思しきパーツから絶え間なく噴出している半透明の蒸気のような物が、どうやら浮力を生み出しているようだ。右手には銃器のような武器を携えていて、今の攻撃はそこから放ったのだとわかった。


 初めて見る物ばかりだ。これが科学の装備というやつだろうか。


 この摩訶不思議な装備と、今のとてつもない攻撃。確かに “五天” の誰かが放ったと聞けば納得できる。


 こんなのもう剣技や魔法の域を超えている。だって、あんなに分厚そうなダンジョンの内壁を軽く貫いてここまで届く砲撃なんて、あまりにも悪い冗談だ。ラヴァナの “始祖武具” の力もすさまじかったが、これは次元が違う。


 本当に、この世は圧倒的に強い人間がまだまだいるらしい。


 だがどんな強い存在だろうと、今はこちらを助けてくれた状況に違いない。顔を見て礼を言おうと、アタシもゆっくりと降下してきた鋼翼を持つその人物へ視線を向けて、そして驚きに固まってしまった。


「………………………………ヴィ?」

【あら。このお嬢さんも “五天” の一人だったのね】


 そう。舞い降りてきたのは、暗闇の中でもなお輝く美しい銀髪をたなびかせる少女だった。


 ボディラインを強調するような半光沢のあるスーツを着用していて、全身には機械仕掛けの武器を装備しているが、それはこの前に記念碑前であったヴィその人だった。


 驚くアタシを見て、ヴィ本人も、薄紫色の瞳をぱちくりとさせる。


「また会ったね。えっと……サクラ、だっけ」

「え、ええ。というか、アンタも “五天” だったのね」

「そう。でも、そんなことは問題じゃない。今大事なのは敵を倒すこと」


 その声音はあくまでも淡々としていて、自信に満ち溢れているというわけでもないのに、どこか安心できる力強さを感じた。


『くは、くははははは! 私を倒すだと? 禁呪の力で無制限に力を振るえるこの私に!? 馬鹿も休み休み言いたまえ。たとえ “五天” 二位の実力があろうと、そんなことは―――!』

「うるさい」


 ダァン!! と、銃声が鳴り響く。


 瞬き程度の刹那に、勝ち誇った声で叫んでいたアウルスの頭蓋を、ヴィが発射した弾丸が的確に撃ち抜いていた。銃の引き金に手を掛けたのすら目で追えなかった。それほどのスピード。


 剣の速さには自信があったが、これはまた別問題ね……。


『はぁ、魔王の力を受け継ぎし私に、そのような鉛玉が効くとでも?』

「……」

「嘘でしょ。本当に人間を辞めるつもり、コイツ……!」


 頭蓋を破壊されたはずのアウルスは、異形の騎士としての姿を崩す事なく、爆ぜた頭部を難なく再生して見せた。彼を取り巻く魔素のオーラが一層濃くなっているのがわかる。


「サクラ、協力して。あいつの回復力は上回ることができる。ただ、時間を稼いでほしい」

「……勝算があるのなら、乗ったわ!」


 答え、すぐさま飛び出す。


 下手に打ち合わせなどしても付け焼き刃の連携など破られる。ならばアタシは好きに動かせてもらう。ヴィの方がおそらく合わせてくれる。なぜか、そんな確信があった。


『はっハァ! 貴様の動きは既に見切った!』

「だったら、限界を越えるまでよ!」


 無理やり動かしている全身の筋繊維が悲鳴を上げる。握り直した刀を振り上げると、一息にアウルスの眼前まで躍り出るて、複数の太刀筋を重ねて放つ。


連携技チェイン壱を重ねること五度(ファースト・ファイブ)。“倒不鯉幟たおれずのこいのぼり”!」


 流れる水のように、逆袈裟懸け切りの動きを繰り返す。遠心力に逆らうことなくどんどん加速し、防御の上から削りきらんと乱撃を繰り出した。


『ちっ、まだ抗う力を残しているとはなァ!』

「当たり前でしょ。こんなところで、倒れていられないんだからあああああああ!!」


 気迫のありったけを乗せた連続攻撃が功を奏したか、ついにアウルスの堅い防御を打ち崩すことに成功する。剣を二本とも弾き飛ばし、ガラ空きの胴を晒させた。


「ヴィ!!」

『無駄だ! 如何なる攻撃も、私の “融合” を破壊することなど―――』

「“始祖武具オリジンアームズ”、起動」


 ヴィの鈴の音のような声が、凛と通る。


 彼女のポニーテールを縛る髪飾り、その円環状のパーツが、カチリと開く。内部の発光とともに空間ごと震わせる甲高い振動音が鳴り始めたかと思えば、彼女が纏う機械仕掛けの装甲が次々に変形し、手にする銃器へ装着されていった。


「〈永久機炉マクスウェル〉、出力50%で固定。全回路を射撃武装〈カルバリン〉へ接続」

『させると思って……!』

「こっちのセリフよ!!」


 なおも抗おうとオーラを纏わせた触腕を放とうとしたアウルスの前に立ちはだかり、刀を構える。足りないのなら、足りるまで斬る!


【おねーちゃん。名前を呼んで】


 またそれか。今はそれどころじゃ……。


【大丈夫。もう、決めてるはずだから】


 そう言われた途端に、ふと心の中に浮かんだのは、刀を自分で打った時のこと。復讐心や絶望、無力感のことも忘れて、ただ一心に槌を振るったあの時の昂揚感。


「…………アンタの名前、決めたわ」


 焼け落ちていく屋敷から持ち出せた唯一の物。両親の形見と言うべきその鉱石は、子どもの頃から気に入っていた、とてもとても綺麗な桜色の隕鉄だった。だから。


「目覚めなさい、〈桜鐡へヴァンティン〉!」


 次の瞬間、握る刀から熱波が爆発する。だが熱くはない、純然たる力の発露だこれは。刀身の刃紋はもんが強烈な桜色の輝きを放ち、燦然と煌めく刃が具現化する。


『なん、だ、それは……!? まさか真銘……? 本当に “始祖武具オリジンアームズ” だとでも!』

「はぁああああああああああああ!!」


 光刃一閃。高く掲げた〈桜鐡ヘヴァンティン〉を型もなく全力で振り下ろす。輝ける刃は触腕ごとアウルスを切り裂き、その異形の体をいともたやすく吹き飛ばした。


『かはっ……ば、馬鹿な……』

「今よ!!」


 ヴィがこくんと頷き、銃口をアウルスに向ける。装甲が合体して長さを増した銃身バレルから紫電のスパークが迸る。


照準決定(ターゲットロック)。必殺武装、発動。――― “ライトニングアーク・レールガン”」


 電磁の力で極限まで威力を高められた弾丸がいかずちの奔流を纏い、音の壁すら突破して、一直線に放たれる。圧倒的な破壊が、アウルスを周囲の地形ごと抉り、薙ぎ払った。


 結果。断末魔すら残すことなく、異形の騎士は消滅したのだった。


「…………勝った、の?」

「当然。あれくらいの魔物程度は、倒すことができる」


 いや魔物っていうか、アレ元は人間なんだけど。……まあ、いいか。こちらを殺そうとした人間のことなど構ってはいられない。


「でも、ヴィはなんでこんなところに?」

「授業。一年生のダンジョンアタックの途中に、強力な敵性反応を感じてここまで来たの。そうしたら、あなたが戦っていたから」

「そっか……」


 この子も一年生だったとは。そういえば、ルルミラが新入生の中でも突出した力を持つ人間を指して “五天” と呼んでいたっけ。


「なんにしてもホントに助かったわ。ありがとう、ヴィ」

「うん。それじゃあ、そろそろ帰投しよう」

「そうね、帰りましょ。疲れちゃったわ」


 きっと他のみんなも無事に戻れていることだろうと、どこか温かい達成感を胸にアタシは帰路につくのだった。横をふわふわと飛行する、表情の読めない科学の騎士とともに。

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