第九話 学園生活、ダンジョンへ
「ダンジョン?」
「そっ! ダンジョン!」
〈リッターガルテン〉への入学から早くも二週間が経ったある日。正直座学ばかりで退屈し始めていた折に、数学の授業が終わった後でルルミラから話しかけられたのが発端だった。
なんでも、次の授業からは実戦形式のものが増えるらしく、その中でも目玉となるのがダンジョンアタックというものらしいのだ。
ルルミラ曰く。ダンジョンとは、普段は冒険者たちが生活のために潜っている特殊な場のことらしく、野生ではあり得ない規格の魔物が多く出現するらしい。その為、獲得できる実戦経験や素材も特別なものが多く、そういう目的で潜る人間も後を絶たないらしい。
「でも、なんでそんなものが自然に発生しているの?」
「う~ん。詳しくは分かっていないらしいの。一説には五人の勇者と魔王が戦っていた時代から存在している古代の遺跡だって話もあるねえ。実際に、“始祖武具” もダンジョンで発見されたって話だし!」
へえ。あの “五天” が所有している特別な武器が……。それらと似ていると言われたアタシの刀についても、なにか名づけのヒントとか得られたらいいんだけれど。
【楽しみだねー】
そうねと相槌をうつ相手は、脳内に話しかけてくる相棒たる刀。
この相棒もどういう存在なのか、ヒントが欲しいと思っていたし、ちょうどいい。
と、いうわけで。
昼休みを経て午後の授業にて。アタシたちは引率の教師に連れられて、学園奥にて樹木がうっそうと茂る森の入口に集まっていた。
「あー、それじゃーおまえら。今から午後の実戦授業を開始するぞー。まず今から潜るのは比較的危険度の低いDランクのダンジョンだ。ダンジョンについては今さら説明する必要もないと思うが、特殊な魔物が出る環境のため、注意が必要だ。かならず二人以上のパーティを組んで潜ることー」
なるほど、単独行動は危険ってわけね。そういえばお山での修行でもなんだかんだ師匠はアタシを一人で行かせなかった。そのあたりの心得もあったのかしら?
「サクラさん~、あーしと組もうよっ!」
「ええ。構わないわよ、よろしくねルルミラ」
「やったぁ♪」
「ええー! ズルいー!」
「くそ、先を越されたか……」
なんだか反響が凄いわね……。
「ふふん、サクラさんは自分で考えている以上に人気者だからねん♪ それよりもぉ、一緒にダンジョン攻略楽しみだねっ!」
「なんだか手馴れている感じだけど、ルルミラは潜ったことがあるの?」
「うんっ。あーしの親は厳しくてねえ。修行の場にって、ダンジョンには何度も放り込まれたもんだよん」
「そ、そうなんだ」
師匠も厳しい人だったが、他所の家でも似たようなことはままあることらしい。しかしそれなら彼女の戦闘力にも期待が持てそうだ。
「ねえ、サクラはん。あんたらのパーティ、ウチも参加してええかな?」
「? アンタは……」
ルルミラと一緒にダンジョンの入り口へ向かおうとしたところで、特徴的なお団子ヘアのクラスメイトに声を掛けられた。確か名前は―――。
「メイリンだっけ?」
「おお~。よく覚えてくれとったね、あんがとさん。そうやで、ウチはメイリン、格闘騎士見習いや」
「格闘騎士?」
名前から察するに、超近接タイプの戦い方をするのだろうか。面白そうだし見てみたいわね……。
「アタシは構わないけど、ルルミラはどう?」
「え~。ちゃんと戦えるのかなあ? あーしらの足引っ張らない?」
「言ってくれるやんけ、魔法騎士。安心しときい。ウチは元冒険者、ダンジョンのことならよっぽど詳しいで?」
なるほど。そういうことならなにかと助かるだろうし、悪くない。むくれるルルミラをなだめつつ、アタシたちは三人でダンジョンアタックを開始するのだった。
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「せぇええええええい!」
轟音を立てて身長二メートルはあろうかという巨人型魔物が沈む。
自信ありげな口調名だけあって、メイリンの戦闘力はなかなかのものだった。亜麻色のお団子ヘアが狭いダンジョンの通路を所狭しと飛び回り、的確な打撃を繰り出していく。
これが格闘騎士の戦い方。拳が武器という短いリーチながら、それを補って余りあるスピードが持ち味といったところか。
特にこれは入ってから分かったことだが、ダンジョンの通路幅はかなり狭く、アタシが十分に刀を振り回せるスペースがほとんどない。ルルミラの細剣やメイリンのガントレットのような武器が適切なのだろう。
「とはいえっ」
背後に湧いて出てきた昆虫型の魔物を刺突で倒す。
閉所での戦闘なら、お山の洞窟で経験済みだ。こういう時は切り払うよりも、突き込むことを意識すべし。
「うじゃうじゃと、うっとおしいねっ。“ウインドサイス”!」
空中を舞う魔物も、ルルミラの風魔法で切り裂かれていく。案外アタシたち即席の割にはいいパーティなのかしらね。
「ふう。そろそろ休憩せえへん? セーフポイントももうすぐそこやし」
「セーフポイント?」
「休憩する場所のことだよん、サクラさん。ずっと戦ってばかりだと疲れちゃうからねっ」
ふうん。よくできているものだ。まるで誰かが人為的にそう設計したかのような都合の良さを感じる。
だいたい、勇者と魔王の時代から存在している遺跡なんてあり得るのだろうか。本当にそうだとしたら、未だに朽ち果てていない理由は―――?
「うっ、うわぁああああああああああああああ!!?」
「今の悲鳴は!?」
「奥のセーフポイントからや!」
学生と思しき誰かの絶叫が狭い通路に反響する。悲鳴のした方向へ急ぐと、そこに広がっていたのはまさに地獄絵図だった。
学生たちを襲う、所狭しと暴れる複数の魔物。その種類は、巨人型や昆虫型、植物型などと様々だ。幸いなことにまだ致命傷を負っている様子の者はいない。さすがに騎士を目指す人間たちだけあって、簡単に死ぬようなはずもないが、しかし。
「なんて数や……!」
「ええ。いくらこんな場所だからって数がおかしくないかしら。それに、セーフポイントは安全なんじゃないの?」
「そのはずだけどねん……。これってさ、メイリンさん」
「ああ。誰かが意図的にトレインしたとしか思われへんな……!」
また聞き慣れない言葉が出てきた。まあ具体的な意味はわからなくても、状況から察することは出来る。要するに誰かがここに敵を引き入れたということだ。そしてこの状況なら、犯人は―――。
「あっ、サクラさん!?」
円形状のセーフポイント、入り口とは対角線上の出口付近、壁沿いに立っている女学生が一人。他の生徒と比べて負傷の度合いが低い。そしてこの状況を怯えながらも、逃げる隙を伺える側に回っている。つまり、意図はどうあれ彼女がこの混乱の中心人物だ。
拡がり続ける混乱の中をするりと掻い潜り、素早く女子生徒へ近づいてその胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
「かはっ! ひ、ひぃっ、ち、違うんです!!」
「黙りなさい。この状況はアンタの仕業よね? なにがあったか説明して」
「わ、私はただ、この魔道具を使ったらもっと楽に魔物を倒せるって言われただけで……!」
怯える女子生徒が手に持っていたのは、鼻につく甘く濁り切った、独特な腐臭を放つ布袋だった。これが魔物を引き寄せた原因ということか。でも一体だれがなんのために……?
「考えるのは後やで、サクラはん!」
「くっ!」
女子生徒を庇いながら後ろに跳ぶ。大蛇型の魔物がその鎌首を叩きつけて攻撃してきたのをかわし、抜刀の構えを取ったまま素早く前へ。
「我流剣技・居合術。弐の型・“鞘奔”!」
すれ違いざまに、敵の首筋に高速の居合いを滑り込ませる。両断された大蛇の首が地面に落ちるのを確認する間も取らず、返す刀の勢いで押し寄せてきた昆虫型数匹を切り倒す。
魔物の動きはそこまで速くないし、強さもそこそこ。ルルミラとメイリンもいるし、これなら労せずに場を制圧できるだろう。そう思っていた。
だが。
【おねーちゃん。まずいわ】
「え?」
脳裏に警告の声。
次の瞬間、足元の床全体を包むようにして黒紫光に輝く魔法陣が展開した。




