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授業参観の思い出

学校が始まってから、土日だけお店で働くようになりました。

学校でどれだけ皆に嫌われてても、お店に行けば海にぃ、マスター、葵くんが笑ってちせを迎えてくれるから、辛い気持ちはちっとも感じなくなりました。

平日の夜、寂しくなったら海にぃにお電話をします。

そしたら今から行くから少しだけ待てる?って、いつも聞いてくれます。

ちせは待てるよって言うと、海にぃは笑って偉いねって言ってくれます。

でも、ちせは悪い子です。

ママにお店で働いてること、お話してないんです。

ママにバレないように、帰ってくる日をそれとなく聞いては忘れないようにメモ帳に書きました。

帰って来ない日は決まって海にぃを呼びます。


「ちせちゃん、お待たせ」


海にぃはいつもコンビニでお弁当やお菓子を買ってきてくれるんです。

それに、ちせが食べ終わった後のゴミは持って帰ってくれます。

きっとママにバレないように気を付けてくれてるんだって思いました。

海にぃはちせのお家に来る時、かっこよくして来てくれます。

すごくドキドキして、何だか緊張してしまいます。

上手くお話出来ているか、たまに不安に思う時もあります。

でも海にぃはうんうんって頷いて、ちせの話を待ってくれます。


「あのね、海にぃ」

「ん?」


優しい目が、何だかくすぐったい。

勇気を出して、海にぃに頼み事してみました。


「こ、これ......!」


背中に隠して持ってた学校のお便りを渡しました。

海にぃはジーッと読んでくれてます。


「......授業参観?」

「来て、欲しくて」


話そうと思っているのに、鼻の奥がツンってして上手く話せません。

泣きたくなんかないのに、涙がポロポロ出てきて苦しいです。

でもちゃんと伝えたくて、頑張って声を出しました。


「ママ......行かないって、言ってて......でも、ちせが頑張ってるとこ、見て欲しくて......」


本当はママに来て欲しかったって思いました。

でも海にぃにも見て欲しいって思いました。

ママなんかよりずっと、海にぃはちせを見てくれるって思ったんです。

ママみたいに、海にぃも行かないって言うかな。

そう思ったらまた怖くなって顔を見れなくなりました。

泣きじゃくるちせに、海にぃは優しくおいでって言ってくれました。

顔を上げてみると、両手を広げて待ってくれている海にぃが見えました。

ゆっくり近づいてみると、ちせのこと、ギュッて抱き締めてくれました。

背中をポンポンってしながら、ちせが泣き止むまで待ってくれました。


「授業参観、行くよ」

「......本当?」

「本当。ちせちゃんが頑張ってるとこ、ちゃんと見に行くから」


魔法の言葉みたいでした。

そう言われた瞬間、涙が引っ込んだんです。

怖い気持ちより何倍も嬉しい気持ちが勝ちました。

授業参観の日が待ち遠しくて仕方なくなりました。

問題に答えられるように、その日からいつもより勉強をたくさんしました。

あっという間に授業参観の日が来て、ドキドキしながら教室で待ってました。

周りの子は皆、ちせの親は来ないんだろって言ってきます。


「今日は来るもん」

「いっつもそれ言うけど来たことねぇじゃん!」

「来るもん!絶対来るもん!」


ガタン、と椅子から立ち上がると、


「ちせ」


って、海にぃが呼ぶ声が聞こえました。

振り向くと、ドアのところで海にぃが手を振ってくれていて、海にぃの背中からひょっこりと葵くんも顔を出していました。

嬉しくて海にぃ達のところまで走っていきました。


「本当に、本当に来てくれたの?」

「来るよ。約束したでしょ」

「俺も来ちゃった〜」


何回もありがとう、頑張るって伝えると、いつもみたいに海にぃは頭を撫でてくれました。

授業は算数で、たくさんの問題を先生は出しました。

問題を解く時間は、一生懸命ノートに答えを書きました。

発表の時、たくさん手を上げてやっと先生が当ててくれました。


「じゃあ糸我さん。12×8の答えは何かな?」

「60です......!」

「正解、よく出来ましたね」


パチパチと周りの人達は拍手をくれました。

振り返って海にぃ達にピースすると、海にぃも葵くんもピースを返してくれました。

授業が終わって休憩時間になると、真っ先に海にぃ達のところへ行きました。

感想を聞くと、すごいねってたくさん褒めてくれました。

学校が終わったら、今日はママが帰って来ないからお店に行っていい?って言うと、海にぃはマスターに話しておくねって言ってくれました。


「ねぇねぇ、本当にちせちゃんのお兄ちゃんなの?」

「かっこいい〜!」


海にぃ達と話していると、クラスの女の子達がちせのところに来てそう言いました。

ちせは海にぃ達を取られるかもしれないって怖くなりました。

だから両手をたくさん広げて、海にぃ達はちせのだもんって言いました。

そしたら海にぃと葵くんはちせ達と合わせるようにしゃがみました。


「ちせのお友達?」


お友達じゃない、そう言おうと思ったけど、女の子達はお友達だって言います。


「ちせね、不器用だから皆と上手くお話できないかもなんだ。それでも良い子だから、これからはもっと仲良くしてくれる?」

「ちせちゃんすっごい優しい子なんだ〜。だからたくさんお話してあげて欲しいな」


海にぃと葵くんの言葉はやっぱり魔法。

クラスの女の子達は、うん!って言ってちせと握手しました。

それからは本当に女の子達と仲良くなれたんです。

だから学校もすっごく楽しくて、土日はお店で働いて、本当に楽しいって思いました。

なのに、ママはそれを許してくれませんでした。

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