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レンタルガーディアン

この頃からだったと思います。

あ、私この人のことが好きなんだなって。

こんなにたくさん私のことを見てくれて、私を大切に思ってくれて。

家族と言われれば、確かにその意味でも好きだと思います。

それよりももっと、異性として、私をお嫁さんにしてくれないかなって子供ながらに思いました。

確かに母が言ったように、私は色気づいたマセガキだったかもしれません。

あれから私はマスターの家に養子として入りました。

夢みたいに幸せだった日常が戻ってきて、なんの問題もなく大学まで進学しました。

海にぃは私がレンタルする度に渡していた1000円を毎回貯めていたみたいで、高校の費用にでも大学の費用にでも好きに使ってくれと養父に頼み込んで返したみたいなんです。

お陰様で私はこうして海にぃと同じ大学、同じ法学部へと進みました。

今も変わらず養父のお店でアルバイトをしています。

海にぃは私が12歳の時にアルバイトを辞めて就職していました。

めっきり会う回数が減って、海にぃも葵くんも時間があれば会いに来てくれますが、昔のようにずっと一緒には居られません。


「あ、海にぃ!いらっしゃい!」

「久しぶり、ちせちゃん」


でも今日は、海にぃと葵くんが揃って会いに来てくれる日です。

葵は?と聞く海にぃに、まだ来てないよと答えます。

10歳も歳上の海にぃは、髭なんか生やしちゃってます。

私は髭ない方が好きだなぁなんて思いましたが、口にはしませんでした。

あれから海にぃは立派に弁護士をしています。

先にコーヒーを作って海にぃに出していると、カランカランと店のドアが開きます。


「悪ぃ、遅れた!」

「遅せぇよ馬鹿」


申し訳なさそうに謝りながら入ってくる葵くんを、笑いながら茶化す海にぃ。

葵くんは営業職に務めているみたいです。

葵くんにもコーヒーを出して、昔話に花を咲かせちゃったりして。

ずっとこんな時間が続けばいいのになって思いましたが、やっぱり現実はそう簡単には行かないものです。


「そういや、2人に話しとこうと思うんだけど」


海にぃはいつになく真剣な表情です。

何だか嫌な予感がして心臓がバクバクと鼓動を速くしていきます。


「俺、来月結婚するんだ」


嘘だと、信じたかったです。

でもその言葉に、私は咄嗟におめでとうって伝えていました。

自分でも上手く誤魔化せたなって、自信はあります。

葵くんは私の様子をチラチラと窺っていました。

海にぃが好きだって話は葵くんにはしていましたから、きっと気を遣っているんでしょうね。

それから海にぃは結婚式の招待状を私にくれました。


「ちせちゃんも俺の大切な人だから、見に来て欲しい」

「......うん、もちろん!見に行くに決まってるじゃん!」


海にぃに彼女が居るのは葵くんから聞いていましたし、そのうち結婚するかもなんて話も薄ら知っていました。

だからこそ、アプローチする気にはなれなかったんです。

10歳の頃にした1回きりのあの告白で、海にぃは私のことをそういう風には見ていないって、当たり前ですけどちゃんとわかってましたから。

あれ以降、好きだなんて伝えたことは1度もありませんでした。


「ねぇねぇ覚えてる?海にぃに授業参観見に来て欲しいって頼んだ時の話!」

「あぁ、覚えてるよ。泣きながら頼み込んできたもんね」

「その話はいいじゃん!でさでさ、葵くん連れて来ると思ってなくてさ!────」


辛くないといえば、嘘になります。

海にぃの隣が私であればいいのにって思います。

でも誰よりも大好きで大切な人だから、海にぃの幸せを邪魔したくはないんです。

それに私は十分、海にぃのおかげで幸せになれました。

これ以上を望むなんてことはしません。

盛り上がっていた話も一段落つくと、海にぃのスマホが鳴り出しました。


「あ、もしもし?......

そう、今学生の頃にバイトしてたカフェにいてさ」


彼女さんからの電話なんだなってすぐにわかりました。

だって、物凄く幸せそうな顔してますから。

少しだけ、私は海にぃから目を逸らしました。

現実を直視したくない、そう思ってしまったんです。

電話が終わると海にぃは、悪ぃと言って鞄を持って立ち上がりました。


「近くに彼女来てるみたいで。

そのまま一緒に帰ることになった」

「あー、そうなの?」

「ごめんねちせちゃん、

急に帰ることになっちゃって」

「ううん!待たせると彼女さん可哀想だし、

早く行きな!」


ありがと、そう言って微笑みかけられた時は行かないでって言ってしまいそうになりました。

でももう私も子供じゃありません。

笑顔のまま別れを告げ、海にぃはお店を出て行ってしまいました。

海にぃが座っていた席にはポッカリと穴が空いたみたいで、コーヒーカップを片付けるとそれがより助長されるように思いました。


「......ちせちゃん、大丈夫?」

「何がー?全然問題なしだよ!」

「......無理して笑わなくていいのに」


何だか鼻の奥がツンとして来て、あ、これ泣いちゃうかもって思いましたよ。

だって葵くんがすごく辛そうに、悲しそうに私を見つめてくるから。

慌てて厨房にカップを下げて、ロッカールームに逃げ込みました。

養父も驚いていたと思います。

誰にも見られない場所でひっそりと泣きました。

勤務中だというのに、全く私は悪い子のままです。

気持ちの整理が着いた頃、フロアに戻ると葵くんは帰ってしまったようでした。

ポケットに入れていたスマホがブブッと鳴り、通知を見ると葵くんからでした。

"帰ってごめん。今度飲みに行こう!"

葵くんは親身になって話を聞いてくれます。

俺がついてるから安心しろー!なんて、酔っ払った葵くんはいつも決まってそう言ってくれるんです。


「ちせ、これ6番テーブルに持って行ってくれる?」

「あ、うん!」


ボーッと考え事をしていたら仕事を忘れてしまっていました。

養父の指示で料理を運び、ごゆっくりどうぞと頭を下げる。

パッと顔を上げて窓の外を見ると、海にぃが彼女さんと楽しそうに歩いている姿が見えました。

私が見た事のない、素敵な笑顔でした。


あの夏、密かに抱いていた恋心は静かに散っていきました。

まるで線香花火のように、呆気なかったようにも思います。

私を護ってくれたレンタル彼氏は、この日をもって終了なのだと知りました。


<了>

以上で「レンタルガーディアン」は完結です。

ご愛読ありがとうございました。

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