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たらふく・ぷよひょろ、磯織り集落へ戻る

 

・ ・ ・ ・ ・



「ガーティンローのお役人さまってな、すごいんだねぇ」



 かいを力強く操りながら、ギーオは言った。



「呪いのもとのあざらし嫁を引っ張ってきてくれるたぁ、ほんとに見事だったよ。ロクリンさんはあれで、どんどんよくなるだろう」



 磯織いそおり集落へと帰る、ベッカ・ブラン・ゼール・ギーオの四人である。皆、エメイさんの所で食べたナノカのたらで、お腹が重くなっていた。これが本当のたらふくってやつであろう。



「たぶんあの嫁は、他のあざらし母ちゃんたちとも話をつけてくれるだろう。息子たちが母親にちょくちょく会えるようになるなら、あそこはもう呪われた集落とは呼ばれなくなるかもしれんね」


「本当に、そうなるといいのですけど。西方流浪でさまよっているあざらしの息子さんたちが、帰るきっかけになるかもしれません」



 ギーオの言葉に、ベッカは同感して付け加えた。


 ……しかし簡単に言った言葉の実現が、どれだけ難しいかということにも見当がついている。


 多くの人びとがふるさとへ帰るためには、どうしたってテルポシエが安全に通過できるようにならなければいけないのだ。旧イリー王政下の時だって、テルポシエの辺境、とくに東側は治安が良くなかった。しかも現在、テルポシエの地を支配下に置いているのはエノ軍である。奴隷供給を通して北部穀倉地帯と強く結びついてきたあの蛮軍が、東へ帰る人々の安全を保障するとは、到底思えない。



「明日の朝は、早いのかい? 今日はうちで、ゆっくりしていきな」



 ギーオは朗らかに言う。



「工房も見せておくれよ、ギーオさん」



 船尾の方から、ゼールが大きく言った。


 にわかに灰色に曇った空、しゃっと霧みたいな雨が降る。ベッカは外套の下に、吊り燭台を抱きこんだ。



――そう、あの集落から“呪い”は解けてなくなる。火の加護をずっと持っていなくても、自由に訪れることができるようになるんだろう……。



 ベッカは思いつつ、ナノカの話した彼女のおじのことを、ふと考える。自分たちを棄てた母親のせいで、顔を焼かれた幼い少年……。


 彼は今でも嵐の晩、どこかの海に呪いを投げているのだろうか。


 村から呪いが解かれたあとも、その人は母を……女性を、永久に呪い続けて生きていくのではなかろうか、……なぜかそんな気がした。







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