海の子ゼールは、ぷよひょろについて行くぞ!
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「……と、言うことでね。ガーティンロー市職員として、僕はここで仕事をすることにします」
三人とも石積み小屋の外に出た上で、ベッカはブランとゼールにそう宣言した。
「ベッカさん。ここは東部なんだから、別にそういうのしなくっても……」
「在外公館業務だよ、ブラン君。異郷で災難にあっている邦人を、市職員がほっとくわけには行かないでしょう」
「そういうもんなんですかー?」
「そういうものなのッ。それでゼール君、何だかややこしいことになってきたし、君はもうオーランにお帰り。僕らが帰る時は、ギーオさんに送ってもらうから」
諭すように言ったベッカに向かい、ゼールは口をとがらせて反論する。
「えー、別に平気だよ! 番頭さんたちが親に行き先言ってるはずだし。俺、ギーオさんとこに何度も泊ってるもん」
「親御さんが心配するよ。帰りなさいって」
「それ言うなら、ブランは何なのさ。俺とひとつしか、歳も変わんないのに」
「ブラン君は、ちゃんと保護者の了解を得て、僕の護衛役やっているからいいの。でも君は普通のお宅の子なわけだしね、危険な目にでも遭わせちゃったら、僕はもう本当に責任がとれないんだよ」
怒った風でもないが、少年はがしりとした肩をすくめて、ゆずらない姿勢である。
「けど、うちのお母さんよく言うよ。騎士の子たるもの、弱者が困ってるなら素通りしちゃいけませんって」
「……は?」
「俺、生まれはテルポシエ貴族なんだ」
ベッカとブランは、ぷよ・ひょろろんと双眸をまるく開ける。
「包囲が始まった時に、お母さんとオーランに疎開したんだ。ほんとのお父さんは騎士だったから、陥落戦の時に戦死しちゃった。その後にお母さんが今のお父さん、ひもの屋のツルメーさんと再婚したんだよ」
「そ……そうだったのかい!」
日に灼けた肌に金髪、聡明そうな蒼い瞳。ゼールの“海の子”風貌はテルポシエ旧貴族の典型像とはかけ離れているから、そうと言われなければ絶対にわからない。
「それにうちのお母さん、なんでか東部のものが大好きなんだ。ギーオさんの織り布窓口やってるのも、東部の人たちと繋がってたいって思うから。俺が東部で人助けしたって言ったら喜ぶよ、しないで帰ったらむしろがっかりするよ」
「そういうものなの……?」
「そういうものなの。大丈夫、だいじょうぶ」
貴族的素養にお店もの的な回転のよさ。口のたつ子である。
「耳もいいし、ついでに精霊もみえる方だから、絶対連れて行ったほうがお得だよ」
「!!」
ふふっと笑いを含みながら、最後の一押しをしてくる。ベッカはぷよんと全身を弾ませ、口を四角く開けた。




