亡き女性の謎のメッセージ
「蛇が、島へ、もどった……」
ベッカのつぶやき声が、沈黙の中に妙な存在感を持って浮かび漂う。
「……何を言いたいんだろう?」
「さっぱりわからないね。うちの妹のなぞなぞ言葉遊びっぽいけど……、おちがないよ」
「そもそもわし、字は読めんの」
周囲の若いのも、しわしわなのも、みな首を傾げた。
「僕にも、全然わかりません。こりゃあガーティンローに持ち帰って、キヤルカさん達にもう一度確認したほうがいいかな……。おじいさん、この玉のほうは? これも東部特有のお細工か何かでしょうか?」
「あ、それは、よくあるとんぼ玉よ」
後ろでなりゆきを見ていたおばさんが、口を出してきた。
「昔の東部では、どこでも手に入った飾りものね。それは目じるしが入っているから、お守りだったんでしょう。悪い精霊や悪運から守ってもらえるようにって、女の子はよく身に着けていたものよ」
ふうん、とブランはうなづいた。確かに、卵の黄身みたいな玉の表面、ぽちんと小さく黒い二重丸が入って、目だまのように見えている。
「てがらもとんぼ玉も、レグリさんが小さかった頃から、大事に持ってたものなんだろうな」
――そんな大切な思い出の品を、正イリー語でよごしてまで、誰かに伝え残したかったことなのだろうか? “蛇が島へ戻った”というのは……。
布地図を開き、その“ネメズの集落”の所在地を老人に示してもらった。このさき東へ行った沿岸地域、小島の群が囲む対岸である。ルーハに言われてつけたしるしが、もうついていた。
元職人のじいさんは、さすがに器用にくるくるくるりとてがらを巻き直す。それでは、と老人が磯織り各種を見せる気満々で、棚に向かった時である。
「あっ。ギーオさんたちが、帰って来た!」
ひょいとゼールが言った。
「何だか、ばたばたした様子でこっちに来るみたいだよ……変だなあ?」
そのまま家の外に出てしまった。あとに続いて出てみると、ほんとだ、ずいぶん向こうの方から小走りにこちらにやって来る、おじさんたちの姿がある。
「……よくわかったね? 叫び声でも聞こえたのかい。僕には、まるでわからなかったけど」
「あ、俺、耳がけっこう良いんだ」
問いかけたベッカに、ゼールは何でもないように言った。
「だから、風の声も聞こえるし」
「……は??」
風の声? 風の音じゃないのかい、とベッカは思いかけるが、ぐんぐん近づいて来るおじさんたちの顔が何やら緊急事態のきびしさを帯びているのを見てとって、そちらに注意を向けた。
そう、今はこの二つを比べている時じゃあないのだ。声と音、声音を。




