騎士団長、割と勝手におそれおののく
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「ガーネラ侯。一体どうしたものでしょう、あのフリガン侯は……」
厄介ごとを予想して、眉根を寄せつつルロワ副長は言った。
あかるい陽光のさす、ガーティンロー騎士団長の室。
机の上に広げられた通信布、……ファダンから届いたベッカからの簡単な報告を静かに目で追ったガーネラ侯は、やはり不安のにじむ眼差しで、正面に立つ副長を見上げた。
「この日付からは、まだ三日です。これで連絡が絶えたとは思いにくい。けれどファダンでの本調査を終えたと言うなら、なぜ戻ってこないのでしょう?」
「……あそぶような若者では、ないしね」
「しかも、ファダンのバーリ侯から入った報によりますれば、フリガン侯は事件の際に負傷しています。そんな状態で、何かしらのついで調査にまわっている……と言うのは、考えにくいのですが」
ガーネラは溜息をつきながら、通信布を半分に折った。
「……困ったものだ。どうして皆、東へやると、おかしくなってしまうのだろうね?」
「ええ。先任者たちは正規騎士でしたから、無法地帯の東部で何らかの危機や武力行使に巻き込まれたのでしょう。その結果失踪扱いになっている、というのはある意味自然です。しかし、フリガン侯はあれだけ慎重な文官、……同じわだちを踏むとは、とうてい思えません」
ルロワは実は、悲しかった。
騎士見習のブランをつけたのも、あの少年の腕っぷしの強さを見込んだというよりは、子ども連れの調査でそうそう危ないことはできなかろう、という保険の意味が強かったのだ。
まじめなベッカのこと、安全第一で早期にガーティンローへ帰還してくれると確信していたのに……。
ふー……、ふふー。
ガーネラと副長の溜息が、二重唱になった。
「……こういう所にまで、あの禍々しい赤い巨人の呪いが、つきまとっているように思えてしまう」
あるいはエノ首領メインの呪いだろうか、と副長も心中でつぶやいた。
「じつに恐ろしい。東部と言うのは、呪われた不幸の源泉なのだ……。我々の騎士たちを何人も飲み込んで、あとかたすら残してはくれない」




