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ぷよひょろ、港で運命の出会い

 

「それはありえるぞ。なかなか冴えてるじゃないの、ブラン君」


「……」



 ベッカに率直にほめられて、少年は照れ笑いに視線を伏せた。



「確かに、エノや海賊たちの出自って言うのは、イリー側の僕らは全然知らないよね。今の首領のメインについては、今回の旅で大きなことがわかったけど……」



 それに、今回の旅の目的はあくまでも精霊使いの調査である。エノの出自、エノ軍の母体についての解明ではないのだから、突き詰めて考えることでもないか、とベッカはどこかで思っていた。



――いや、待てよ? 僕が知らないだけで、実は団長やイリー各国の軍部が掴んでいる詳細は、あるのかもしれない……。今回の調査目的からちょっと外れているから、ガーネラ侯も資料として僕によこさなかったとか……。うん、あの人は回り込んで気を利かせられる人じゃないからなぁ。悪い人じゃないんだけど。



 小さな突っかかりから、上司批判に傾きかけてしまったベッカをよそに、ブランはふと神妙な顔になって言った。



「はい。……でもあの、俺。前にオレンゼの集落で聞いたことが、どうも引っかかるんです」


「ああ、あの病気のおじさんの話? 呪われた集落出身で、エノと近いって言ってた人かい」


「そうです。ベッカさん、地図にしるしはつけたんですよね?」


「うん。僕はいまいち、信じられなかったんだけど……。一緒にいたおばさん達の話から、だいたいの見当をつけてある」



 革鞄から、くるんと取り出した地図を開いて、ベッカはその一画を指さす。


 南の沿岸地域、東部大半島の付け根よりの部分。



「……わりと、テルポシエ国境に近いとこですね??」


「そうだね。ガーティンローで亡くなったレグリさんの故郷とも、あんまり離れていないような」


「あ、そう言えば……。今日、織り布売ってる人に会えたら、レグリさんのてがら・・・見せるんですか?」


「そのつもりだよ。彼女と同郷の人を知っているなら、ご遺族に届けてもらえるかもしれないしね。まあ、商人として売っているだけで、織り布……磯織いそおりのこと以外は詳しくなさそうだったら、黙っておくけど」


「そうですね!」



 そういや、その布は磯織いそおりって言うんだった! ベッカの言葉を聞いて、ブランはここでようやく思い出す。


 ベッカは再び地図をくるんとまとめ、ぷよんと鞄にしまった。



「……おやッッ! ちょっとベッカさん、あれっ!」



 ブランが急に、緊張感をはらんだ声をあげる。



埠頭ふとうのところ! 小舟がまわりこんで来る!」



 ベッカも目を見張って、少年の示す方向を見た。


 本当だ、小さな黒い姿の舟が、すういと港に入ってきた。



「何だ、ありゃあ……。川釣りの舟みたいにちっぽけなのに、荷物をもりもり積んでいる!」


「行こう、ブラン君。舟に乗っている人をおどかさないよう、ゆっくり歩いて……。回り込みながら、近づくんだ」


「はいっ」



 二人は立ち上がり、波止場に向けて大きく回り込みながら、小緑地の中を歩いて行った。


 ブランは周囲を見まわしつつ、小舟からも注意を離さない。


 黒い小舟はすでに接岸して、もやい綱をくくりつけたらしかった。


 遠目に見ても、乗っているのは一人きりだ。


 反対側の漁船から出てきた男性ふたりに、その人物は軽く手をあげて、挨拶したらしい。



「……うん、地元の漁師さんとも知った仲みたいだ。これはなかなか、話せそうだね」


「イリー語も話せる人なんだろうな」



 期待に胸を膨らませて、ひょろひょろ・ぷよよん、と近寄った。


 全身全霊のさりげなさで、ベッカは声をかける。



「こんにちは……」



 波止場の木床の上に、箱を重ねて積み上げていたその人物は、くるりと振り返った。



「こんにちは。あれ?」


「あれッッ」


「えっ」



 三人とも驚いた。


 暗色の毛織仕事着すがた、木箱を抱えて立っているのは、先日港で会った少年ではないか!!




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