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とけかけチーズとあぶりハムのサンド

 

・ ・ ・ ・ ・



 あかるく明けた初夏の朝の中、二人は出発する。


 ブランが騎士に教えられた通り、森の中を西に進むと、やがていなか道がひらけた。



「いったん、“切り株街道”のリメイーまで退却しよう。なるべく早くファダン騎士団に連絡して、この辺一帯を捜査してもらわないと……」



 ブランによれば、騎士の男はならず者たちを全員倒したように言っていたらしい。しかし似ているようなことをしているやからがいるかもしれないし、北部から供給にやってくる奴隷仲介業者を取り締まる必要がある。


 ベッカは、そういった商人が興味を持つのは、東部ブリージ系の人々だとばかり思っていた。



「とんでもない思い違いだったよ。イリー人でも、足のつかなさそうな人間はさらわれるんだ……。これはバーリ侯とガーネラ侯に、重要事項として報告しなくちゃ」



 草の入り混じる道をてくてく歩きながら、ベッカは考えている。……これ、将来、問題になるんじゃなかろうか? イリー人を対象にした、奴隷交易……。



「あの酒商のあった所には、もう戻らないんですか? 馬を置いてきちゃったけど」


「そうだね、仕方ないけどあきらめよう。そのために保険をかけてあるのだし」



 にしても長い道のり、しばらくしてベッカもブランもへばってきた。


 薬をかがされて、気絶していた時間は“休息”ではない。徹夜明け状態のところ、空腹を抱えて頼りない旅路を進むとなれば、誰でもへばるというものだ。



 しかし二人は、農家の荷馬車に拾われた。


 通りがかり、ブランの子ども顔を見たおじさんおばさんが、憐れんで乗せてくれたのである。



「追いはぎにやられちゃったの? かわいそうにねえ」


「ひどい目にあいました」


「飴ちゃんをお食べ、元気が出るよ」



 野菜の詰まった木箱と籠の間、ひょろひょろぷよりと揺られながら、二人はむちゃくちゃ助かった、と思っている。


 リメイーの定期市に行くところだ、と告げられた。



・ ・ ・ ・ ・



 リメイーの町に着いてすぐ、ベッカは町役場に一報を入れた。


 職員が慌てて、最寄りの騎士分団へ連絡に向かう。このへんの段取りは、自分も市職員だから慣れているベッカである。


 役場前の広場で開かれた、定期市へと足をむけた。


 ふすまのぱんに、あぶった塩豚と乳蘇を挟んで売っている屋台があって、二人はそこにひょろ・ぷよよー、と吸い寄せられる。



「ベッカさん。これ朝ごはんなんでしょうか、それともおひる?」



 今回はちゃんと周囲に警戒心をめぐらしつつ、ブランが聞いた。



「朝に決まってるでしょ。来るべき時が来たら、おひるも食べるのです」



 神妙な顔でベッカは頬張った、とけかけ乳蘇が、うまっ。


 二人が腰掛けた花壇のすぐそばで、石造りの泉がこぽこぽ・たぽたぽ、と音をたてていた。頭に小さな二本角のある怪物像が、生あたたかい笑顔を浮かべたその口から、清水を吐き出しているのである。


 果物売りに味見させてもらったはしり・・・の杏はまだ固くって、ベッカは桜桃の方を一袋買った。


 もぐもぐ、ぷうと種を手に受けつつ、ブランがたずねる。



「この先の調査は、どうなるんです? ベッカさん」


「そうだね……、」



 ならず者一味の女、ドーナによって、はからずも大きな情報が得られた。


 滅ぼされた集落の、最後の精霊使いは女性だった。彼女を略奪した海賊と言うのがつまりエノであり、その子メインが現首領にして精霊使い。


 つまり、イリー側にくみしてくれる精霊使いは、存在しないのだ。


 この辺をブランにはまだ、説明していなかった。口を開きかけて、ふと思いとどまる。……あの女、ドーナはどうなったのだろう。



「あ、ベッカさん。さっきの町職員の人が、ファダン騎士つれてこっちに来ます」



 ぷぷぷぷー、片頬にためておいたさくらんぼうの種をまとめて掌に受け、近くのごみ箱に捨てると、ブランはベッカのちょい前に立った。





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