表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/109

ぷよひょろ、女神と騎士に救われる

 

 ・ ・ ・ ・ ・



 次に目覚めた時、ブランの鼻腔には、慣れた薫りが満ちていた。


 乾いた木の燃える香気。



「……」



 目を開ける。


 何かすてきな、ふわついたもの……。あたたかいものに包まれていた気がしたのだけれど、自分の体にかかっていたのは、いつもの灰色外套だった。


 ごわついてはいるが、着ているものは乾いている。


 すぐ脇にベッカの丸いお腹が見えた。臙脂えんじの表地を上に、外套がかけられている。その巨大な丘は、柔らかく上下していた。



「気がつきましたか」



 優しい声が、のほほんと囁かれた。


 肘をついて身を起こすと、火の入った炉の前、腰掛けに座り込んだ男が笑顔を向けている。賊のところで助けてくれた人、とすぐに知れた。



「ここは」


「釣り人用の森小屋ですよ。あたりの集落からは離れているし、他に人間は誰もいないから大丈夫」


「……」


「お兄さんも、大事ありませんから。安心して良いですよ」


「助けてくれて、ありがとうございました」



 心から、ブランはそう言った。


 男はうなづいた、ちりちり髪が輝く。はぜる炉の炎に加え、窓から光が、早朝の明るさがわずかに差し込んできている。



「私があそこに居合わせたのは、偶然だったのですけどね。間に合って本当に良かった、……お白湯を飲みますか?」


「あ、はい」



 炉にかけられた古い鉄鍋に煮えていた湯を、男は欠けた椀に注いでくれる。



「あの村は、本当の村じゃなかった。ならず者が廃屋を店らしく取り繕って、奴隷に売れそうな旅人に目星をつけ、襲っていたようです。私はあの人たちと同郷なものだから、本当に人身売買の現場を押さえるまでは、説得しようと思って一緒にいたのですよ」



 男の口から出てくるのは、きれいな話し方の正イリー語だった。


 あたたかい湯をすすりながら、ブランは素早く男を観察する。


 立派な体躯に妙な居ずまいの良さ。革鎧に麻衣、毛織物、幅のある股引ももひきに長靴、着ているものはぜんぶ黒色で見るからにくたびれている。なかみの男本人だけが、若かった。三十代前半くらいだろうか?


 先ほど暗がりの中で顔を寄せられた時は、もっと年輩……彼の父ほどの年だと思ったのだけれど、気のせいかもしれない。


 男は脇に置いていた外套をつかむと、かくし部分から小さなものを取り出して、ブランに手渡す。



「これを、あの物置床で拾いました。お兄さんに返してあげてください」


「あっ!」



 煙水晶の飾り、ベッカの叙勲章である。



「うわあ、良かったぁ……」



 思わず、安堵の声が高くなった。



「君のお兄さんは、ガーティンローの文官騎士なんでしょう?」


「あの、えーと……。ベッカさんは、兄ちゃんじゃないんです。俺は見習で、この人の護衛してます」


「えっ?」


『ほらー、やっぱり違ったじゃない。全然似てないもの』



 ベッカのお腹に寄りかかり、革鞄の中身を検分していた、ブランの目に見えない女神が言ってよこした。



『すごい、すごすぎるわ。このかばん……。ぴっちりきっちりふたが閉まるから、水が中に入らなくって、だから川でも浮いてたのね。書類も無事で、にじんでいないし。すごーい。きっと、お高いんだわ……! 何の皮革でできているのか、知りたい……』



 小さな手で鞄をこねくり回し、底の方を見ている。



『ぶたちゃん皮かしら? あっ、銘が入ってる。ん-と? 何と読むの、……るいびとん??』





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ