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ぷよひょろ絶体絶命

 

 どーーんッッッ!!


 渾身の力をこめて、さらに全身全霊の重みをのせて、ベッカはそいつに体当たりをした! ぷよよよんッ!



「ぎゃっ!? ふごーッ」



 そのまま、ふくよかなるお腹で、男の頭を攻めるッ! 床に横倒しになった男は、空気を求めてもがく。



「あッッ?」



 仲間が予期せぬ攻撃に見舞われて、ブランを後ろから拘束していた男は、注意を逸らした。


 その一瞬の隙に!


 ごいいいいいいん!!!


 高速のかがみ込みから伸び上がり、少年はすかさず男のあごに、頭突きをお見舞いする。手が離れた……半回転ッ、


 ぐいいいいいいん!!!


 眉間に向けて、それこそ刺すような頭突きをもう一つ!


 がたがたたッ、派手な音をたてて、男は木箱の中に突込みくずおれる。



「ぶはあッッ」



 ようやくベッカを押しのけ転がした男が、さっと短剣を抜いた!



「てめえらぁっっ」



 ブランは、びいんと身構えた。男の殺意と刃のきらめきを、ぎいんと見た。


 粗野な男の太刀筋など、少年はとっくに見切って、――



 ぷよ、 ぷす!



 見切ったはずの太刀筋を、ふんわりしたものが阻んだ。


 男はぎょっとして、組み付いてきたベッカを見る。


 ブランはその瞬間、閉ざされた両足をいっぱいに跳ねとばして、木箱のひとつに素早く座った。


 座った部分、すなわちお尻を基点とし、そこから――


 ずどんッッ!! 男の左膝に、そろえた両方のかかと落としをくれた!



「うわああああッ」



 くずおれる男、その脇やはりうずくまるベッカ。


 さっと木箱の上に立ち上がると、ブランはそこから男の後頭部めがけて跳ぶ。


 ぐぎぃいいいっっ。


 少年の革長靴の底の下、着地音は何かの折れる音だった。



 はあはあはあ、荒い息をつぐ間に、かたりとベッカが、床の上の短剣を拾い上げたらしい。



「……ブラン君! 手足の縄をっ……」



 繋がれたままの両手の間に短剣を挟んで、ベッカはブランのいましめを切りほどいた。



「ベッカさん」



 自由になった手で、今度はブランがベッカの手足の拘束を切る。自分の足を最後に自由にした。



「……ベッカ、さんっ!?」



 首筋に手をあてているベッカを見て、ブランははっとする。



「そこの窓から出よう、中弓持って! はやくッ」



 さっき組み付いた時に受けた傷から、出血していた。



「ベッカさん、けがしてる……!」


「すぐに他の奴らが来るよ、……って、ああ!」



 振り返った二人の視線の先、半開きの扉の陰に、人影があった。


 ブランは即座に中弓を握り、そいつめがけて、ぐんと振り下ろした!



 ……すうっ。



 その一撃は、やわらかくよけられた。


 外套頭巾を深く下ろしているその背の高い男は、そのままするりとブランの間合い内に入る。しまった! 緊張の一瞬のうちに、男は囁いた。



「お逃げなさい」



 少年は耳を疑う。


 手燭のうす暗い灯りに、その頭巾の陰からちらりとのぞいた不思議な色の長いちりちり髪が、きらめいた。



「他にも八名ほどがいますが、ここは私たちが引きとめますから、大丈夫。その窓の裏から、森へ向かって、お兄さんとお逃げなさい」



 優しくて深くて、有無を言わせない声だった。


 ブランは素早く後じさりをすると、窓を開けてその下に木箱を置いた。まずベッカを出させ、次いで自分もひらりと飛び出した。



・ ・ ・



「あっ……あれっ、どうしたんだ? 商品がいねえ!」



 他の仲間二人を連れて、薬を手に戻ってきた男が、すっとんきょうな叫び声をあげた。


 頭巾の男は、ゆっくりと振り返る。



「おいこら、新入り! お前、見張ってなかったのか!? 逃がしちまったのか!」


「どうすんだよ、もうじきに引き取り業者が来るんだぞッ。こうなったら、てめえを代わりに売ってやるッッ、……ひぁっ!?」



 頭巾の男の外套襟をつかみ上げようとしたならず者は、そのまま真横に吹っ飛んで、ばしんと壁に叩きつけられた。



「……何とか、説得したかったんですけどねえ……」



 男は頭巾をあげながら、溜息をついた。


 酒商の裏側、厚くしつらえられた石組壁の物置に入りかけていた男達は、目の前で起きた珍妙な現象に目を丸くする。


――……家の中で、風が吹いた?? しかもすんげえ、強いやつ……。



「ええ、もうどうしようもないですね。後ろめたい商品を扱っているのだろうとは思いましたけど、ほんとに奴隷だなんて。悔い改める素振りも全然ないし、やっつけちゃうしかないでしょう」



 金髪とも赫毛あかげともつかない、その中間が段々になったちりちり髪をふり立てて、騎士は吊り下げた短槍の紐を、するりと解いた。のほほんと笑いかける。



「あなた方。テルポシエの名折れですよ? もと・・市民兵の皆さん」



 ひゅうい……。


 その周辺を小さく、黒い風がめぐる。



おおう…やなとこで切れるな~、つづきは?次回更新は…

そっちの世界の5月13日(月)7時30分か…。

しゃーない、土日は俺っちの実家「紅てがら」で、買い物しながら待っててください。そのあと南区の「黄金のひまわり亭」へ食べに来るっちゅうのが大歓迎っすよ。でもって完結した「海の挽歌」もどうぞ~!!

https://ncode.syosetu.com/n4906ik/


それではどちらさまも、お気をつけていってらっしゃいまし!

(黄金のひまわり亭・副店長ナイアル)

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