本日のおすすめ:うさぎの香草煮
つるりと白っぽく輝くうさぎの身が、深めの皿の中で、だいだい色の汁につかっている。
その横ほこほこしているのは、湯気までみどりのつぶし青豆だ。
ブランはさっそく、がっついている。
「むちゃくちゃおいしいです。でもちょっと、辛い」
「あ、ほんとだね、ずいぶんきいてる……。これ、香草煮っていうより、香辛料煮なんじゃあ」
熱くてちょっと辛いところを、二人は話も挟まず、一心不乱にたべる。
ブランがつけ合わせのつぶし豆を頼んだら、給仕の女がちゃんとうさぎ肉も添えてのお代わりを持ってきた。
「うちのおやじさんが、たっぷり食べておくれって!」
「えっ、ありがとうございます」
食べている時のブランは、わかりやすかった。見るからに嬉しそうに、頬張っている。
「全然文句なんか言う気ないけど、きみ本当によく食べるね……。さすが成長期のど真ん中」
「……え、そうですか? 俺は割と食ほそいって、お母さんに言われますけど? 兄ちゃん達や義姉ちゃん達は、もっと食べます」
「……」
どういう一家なのだろう。
「ベッカさんは、あんまり食べないんですね」
見かけがこうだから健啖家だと思われがちなのだが、実はベッカはそんなに食べない。
……ただ、こわけにしてちょいちょい食べるのが、好きなのである。
「ふう」
食べ終えてから、ベッカは手洗いに立った。
戻ってみると、ごちゃついていた店の中はさあっと客がひいていて、ぽつぽつ残った男客たちもそろそろ帰りがけの様子である。
ブランは残してきた時のまま、座っていて……。
――おやっ?
なにかが不自然だった。
横顔が、異様にとろんと眠たげである……。
「……ブラン君??」
卓子の脇に立って声をかけた瞬間、ひょろ長い少年の上半身が、ぐらりっと前にのめった。
「!!!」
空っぽの皿に顔がぶつかる寸前、ベッカはとっさに腕を回して、ブランを横から抱え込んだ。
「ちょっと! どうしちゃったの、ブラン君ッ?」
「どうかなすったの、お客さん……あっ」
給仕の女が、走り寄ってきた。
「たいへん! おやっさん、おやっさぁん」
「どうした、どうした」
椅子に座ったまま、ベッカの腕にもたれかかっているブランのまわりに、店のおやじと居残り客が集まった。
「何だろう、急病かね? すぐに村の薬師を呼ぶから、お兄ちゃん、店の裏のほうへ運んで寝かそう」
「そ、そうですねッ!」
店のおやじ、ベッカ、男客ふたりの四人でブランの身体をかつぎ上げた。
厨房を突っ切っていった先の裏手、物置のような室に、簡易寝台がある。
「お客さんら、どうもありがと。ほいじゃ俺は、薬師よんでこよう」
店のおやじが言う、男たちはどやどや出てゆく。
長くのびたブランの額に、ベッカは大きな手のひらをのせた。熱っぽさはない。
苦しげ、痛々しげな様子もなくて、少年は見かけ、深く眠り込んでいるだけのように見える。
「一体どうしちゃったのだろう……。同じものを食べて、僕は何ともないのだし、もちろん食あたりじゃないなあ。持病なんか、ないはずだし……」
「大丈夫よ。眠っているだけだから」
優しい声がすぐ間近にきこえて、ベッカは反射的に横を見る。
「ごめんね」
やわらかい布で、鼻と口とをふさがれる。
ベッカはふんわりと、気を失った。




