罵倒、それが何か? 強メンタル文官
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すっかり雨が上がって、晴れやかな翌朝である。
リメイーの町からほんの四愛里ほどのところにあるソムラで、二人は何の収穫も得られなかった。いやな思いばかりした。
集落の手前あたりで、七・八人の子どもたちが待ち伏せをしていた。
道脇の茂みの中から、
「でぶイリー!」
「ひょろイリー!」
「どっちも童貞イリー!」
と、実に不愉快な中傷を浴びせてくる。この辺、潮野方言的になまっていても、ちゃんとイリー語なのがにくたらしい。全員十歳かそこいら、かわいげのない暗い顔つき。
もちろんベッカもブランも相手にしないが、そいつらは斥候らしかった。
掘立小屋と天幕のかたまりを後ろに、暗色の髪をぼさぼさとたぎらせた壮年の男が二人立っていて、こちらに睨みをきかせている。いかつい体にあかじみたぼろ服を着ていたが、腹の下の方がだらしなくたるんでもいた。
ベッカはごま小馬から降りて、潮野方言でおだやかに挨拶してみる。
「福ある朝を」
言葉は、返ってこない。
「……僕は、ガーティンローのキヤルカさんの友達で、ベッカと言います」
男達は、うちうちで視線を交わし合わせたが、やはり何も言わなかった。
「昨年亡くなった、レグリさんという女性を知っている人がいたら、話をしたいのですけど。ご遺族を探しているんです。南の海沿い地域、深奥部から来た人はいませんか?」
男の一人が頭を振った。少し態度をやわらげたようにも見えるが、拒絶の意思は変わらないらしい。
「……ここの村に住んでるのは、北から逃げてきた者がほとんどだ。あんたが探している人間はいないし、あんたに話すことも何もない」
「帰ってくれ」
もう一人も、静かにすごんでくる。
十分な間合いを取って男たちに向かい合っていたベッカは、それで小さく会釈をすると、振り返ってブランに目配せをした。
そろそろと引き返す。後方のブランは、男たちの視線がいまだに自分の背中に刺さりっぱなしであることを感じている。
かつ、かつん、と下方から音がした。
「かえれ、ひょろイリー」
「しね、でぶイリー」
馬の足元すぐ後ろを狙って、悪童どもが石つぶてを放っているのだ。
ぶひん、と黒馬が機嫌を悪くしている。ブランもむかむかしている。
「気にしちゃだめだ、ブラン君」
前をゆくベッカから、声が流れてきて届く。
こんもりした背中は、振り返らずに前を向いたままだ。
「彼らはきっと、もっとひどい言葉を投げられてきた」
少し前に出て、並んだ時に、市職員はふいとブランを見る。
全くこたえてなんかいない、平静そのものの丸顔が、ぷよんとしていた。
「一回こっきりでお腹を割った話ができるとは、思っちゃいないよ。昨日のオレンゼは、まぐれ当たりの幸運つきだったのさ」
――また来るつもりでいるんだ?
あんまりむかついて、二度と来るかこんなとこ、あんちくしょうと思っていたブランは、それでけっこう感心した。




