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ごめんよ、バーべお婆ちゃん

 

・ ・ ・ ・ ・



 きゅきゅっ、ぽん!


 あざらし達は仲間の体に刺さった矢を、口にくわえて引っこ抜き合っている。



「大丈夫ですか、皆さん!」



 駆け寄ったベッカは、ぷよぷよと波うちながら聞いた……。ものすごく痛そうである!



『ふーんだ、何でもないのよ、こんな小っさい矢じり……』


『あたしらの皮下脂肪は、超一流の防御壁だぞい』


「バーべお婆ちゃんは……ああ、自分で取っちゃったの」



 ブランがしゃがんで持ち上げる老あざらし後脚のひれ・・に、小さな穴がふたつ開いてしまっている。



『いたたたたー……歩けないにょん。ブランたん、抱っこしてもらえるかにょん』


「どうかなあ、できるかな……。 あー無理」



 一応試してみたが、さすがのブランでも成獣あざらしのお姫様抱っこは不可能である。重すぎた。



『とか言いつつバーべお婆ちゃん、さっきベッカ君を助けに、すごい速さで這っとったやん?』


『どきり』


『んもう……、はやく海へ、帰りましょうよう……』



 かしましく喋るあざらし女の一団、ほんとにさっさと立ち去ろうと、ブランもベッカも行きかけた時。



「あの、……あの。待って下さい、……」



 遠巻きに立ち尽くしていた男たちの一人が、おずおずと近寄ってきてベッカに言った。



「あんた……あんた、イリーの精霊使いなの?」


「違います、イリーの市職員です。精霊の皆さんは、お友達です」


「……助けてもらえないか。何だか、よくわからなくなってきちまって……。ミヒャー様が精霊使いでないってんなら、ルヒロ様も声音こわねつかいじゃないってことなのかい?」


「……!」


『何てこと。偽の声音つかいまで、そろってんだねッ』



 ナノカが隣に来て、いきり立つ。



「さっき村に帰ってった人たちは、ミヒャー様とルヒロ様の兄弟と、ずっと一緒にいる人たちなんだ。俺たちばらばらに東に帰って来た者は、自分たちの言うことを聞いていれば精霊に守ってもらえるからと言われていて……。女子ども連れの人たちも、多いんだよ」



 別の男も進み出てきて、言う。



「あんた達の姿を見せて、皆に本当のことを知らせてやってくれ。お願いだ」



――これ以上の、危険は……。



 ブランはベッカを見下ろす。


 文官騎士はきょろっと眉毛を上げてみせた。



「行くしかないでしょう?」



・ ・ ・ ・ ・



 あざらし達と光の粒々“ひかりんぼ”に伴われて、ベッカとブランは男たちの後に続く。



「ひかりんぼ……。そういう名前だったのか、お前たち。……なんでたくさんに増えてるの? 一つだったのに」



 ブランは首をひねった。ひかりんぼ、の名称はバーべに教えてもらったのだが、この増え方はよくわからない。今や無数の卵大の球体が、臙脂えんじ色に点滅しながら一行上空をくっついて来るのだ。



「あそこだ……。あっ、誰かが戦っている!?」



 男たちの一人が、怯えた声をあげた。


 地表が落ち窪んだ、その下段部分の集落を見下ろす。散在する天幕の合間、少し広くなったところで、たしかに数人の男たちが立ちまわりの真っ最中である!



「やめさせないと!」


「あれっ……? 戦っているの、あれって奴隷だぞ」


――は……??



 男たちの言葉に疑問を感じつつ、ベッカとブランは石段を下りた。


 びん、ぎん、ぐいんっ!


 粗末な天幕の間を駆けて、そこに近づくにつれ、様子が明らかになる。


 何やら長い武器を持った男が、ものすごい勢いの突き連弾で大柄な相手の小手をこっぴどく攻め、最後にどかんと鳩尾(みぞおちひと突き、ふっ飛ばして天幕の中にめり込ませた。


 びいーん!


 しなやかな長い何かが風を切る音、ふいに二人の男が倒れてすっ転ぶ。


 ぴしッ! それが今度は生きもののようにぐにゃりと縮まって、持ち主の手元におさまった。……長鞭だろうか!?




 しーん……。


 倒れてぴくりともしなくなった男たちの中心に、つば広帽子をかぶった中年がふたり、背中合わせに立っていたのだった。



「終わりだろうかね、オーリン?」


「終わりじゃねえのか、殿」



 ブランは自分の耳を疑った。ここは東部大半島、しかもその果て・深奥部だ。


 ロクリンと穴底の騎士を見ただけでも、びっくりだったのに……。なんでまた、正イリー語話者……イリー人に、出くわすんだろう??





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