プヨローグ~ぷよ&ひょろの冒険
【祝】小説家になろう20周年、おめでとうございます!(2024.4.2)
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本作品を、全国の自治体でお仕事に励まれる職員のみなさまに捧げます。
(門戸)
「ぎぃやぁああああ――ッッ」
走る走る走る走れ!!
着地点の右足もと、岩上に育った苔がぬるりとすべる。その不安定きわまる平衡感覚の乱れが脳みそ知覚に到達する前に、左の足裏でごつい樹の根をふんで跳ぶ!
転ぶ暇があったらすすめ、前へ前へと跳び走るのだッ!
「だからぁ――ッッッ、」
ひゅ・ひゅひゅひゅーん!
両耳脇でふかふか揺れている巻き毛をかすめて、極小のつぶてみたいなものが後ろから飛んできた。
「僕に、冒険とか立ち回りってのは、無理なんだってばーッッッ!」
金切り絶叫悲鳴で言いたてながら、ベッカはすさまじい勢いで、鬱蒼と暗い森の中を全力疾走している。
「ぜんぜん、無理じゃないですよー! ベッカさん、逃げ足はやいんだー」
すぐ後ろで、ブラン少年が朗らかに言った。
言いつつ、右手の中弓をくるんと頭上で回転させる。それで彼に迫っていた、やや大きめの球体つぶては、ぱしッと弾かれあさって方向へ飛んで行った!
「冗談いってないで、逃げるんだよブラン君ッ。このままじゃ精霊に、くわれてしまうぞうッッ」
――いいや、ほんとに冗談なんかじゃない!
ブランは改めてきりっと、目の前の文官を見た。
ベッカは何にもしていない、ただひたすら全力で走っているだけだ。しかしその幅広な体躯で勢いよく爆走するものだから、うざったくまとわりつく樹々の枝やら草やらがぶち飛ばされ、なんだか道がひらけてしまっている!
――すぐ後ろの俺、めっちゃ走りやすーい!
「あーッ、ブラン君! いま、ゼール君の声、聞こえたよねッ? ようし、こっちで良かったんだ! ゼールくーんッッ! たすけてーッッ」
何という事だろう、生存本能のなせるわざ! ブランには全く聞こえなかったゼールの誘導まで、ベッカにはしっかり聞こえている!?
――うん、やっぱりこのひとについて行けば大丈夫なんだ! 俺でもいっぱしの、騎士になれるかもしれないッ。
ブランの胸が希望的観測にみち満ちたその時。
するるうっ! と不規則な動きで追いついてきた、りんご大の光る球体が二人を追い越し、 ……ぼんッ!
「! あっ……ベッカさ……」
「んぎゃあああッッ!?」
まるまるふくよかなお腹の中心に、精霊の飛び込み一撃をくらったベッカは、瞬時宙に浮いた。
受けた衝撃の強さにもかかわらず、彼の身体はひたすら前進を試みていたのだ! 右足、つづいて左足が地表を離れて、
……
ゆらあああああり……
全ての時の流れが重くまどろんだらしい。
――どうしてなのだろう。
空中浮遊でかたまり凍ったその瞬間、ベッカは全てを思い返した。
こんなにひよわで温厚で、いかにも机仕事むきの自分が、この理不尽な東方旅行に出るはめになったいきさつを……。