片想い
僕が、幸せだと、誰かが、不幸せかもしれない。
僕は、そんなこと、考えたことなかった。
「もう、一生、恋はしないつもり。」
「そうだね。」
君は、知らない。
「あなた達は、とてもお似合いだと思う。」
「そうかな。」
どうして、こんなことになった。
あの日、言った。
「気になる子がいる。」
「そうなの、応援するわ。」
その時、気が付いた。僕の、思いは空回りしている。
「ありがとう。」
君は、僕の、この表情さえ気にしない。
心は、複雑で、単純。
「あの子が、好きなんでしょう。私に任せて。」
「違うよ。」
「隠さなくていいから。」
君は、笑った。
「親友の、元恋人だから、我慢するの。」
「違うって。」
君は、いい人で、僕も、君にいい人だと思われていたい。でも、無理みたいだ。逃げ出すことしか、思いつかない。僕は、臆病者。そして、
「お久しぶり。元気だった。」
「ああ。」
「そっけないのね。」
彼女は、何を思って、ここに居るのだろう。僕の友達と、別れて、何を言われて、ここに来たのだろう。
「今日は、あなたが誘ったのよね。」
「…。」
「何かの冗談。」
少し、イラついている。そりゃそうだ。逆の立場なら、同じ態度をとるだろう。
「ごめん、何か、勘違いがあったみたいだね。帰ろう。」
僕は、伝票を手に取った。
「そう、わかった。」
と、彼女は、席を立った。
「さようなら。」
と、僕は手を振った。
彼女が去った後、携帯電話にメッセージが届いた。
君からのメッセージ、彼女から、連絡があったんだね。
そこに居て、今から行く。だって、
「どうしてなの。」
君は、怒っている。
「違うって、僕は言っただろう。」
「もう、一生、恋はしないつもり。」
「そうだね。」
君が何か言っている。聞こえているけど、聞きたくない。
「そうかな。」
違う。違うんだ。僕の、本当の気持ちは、言えないんだ。君にパートナーがいるかぎり。
「疲れた。今日は帰る。」
「そう。あまり、周りに気を使って、我慢しないで。」
我慢か。それは、まちがっていないな。
「余計な事をしたわ。二人には、まだ、時間が必要だったのかな。かえって、邪魔してしまった。」
「君のせいじゃないよ。気にしないで。」
「あなたは、優しいわね。昔から、変わらない。」
「どうかな。」
そうだね。変わらない。
「また、連絡するね。」
「ああ。」
この言葉に、救われる。出会ったころから、とは、言わない。段々、好きになった。すごく好きになった。僕には恋人がいた。そして、別れた。でも、君は、僕じゃない他人と幸せみたいだ。そして、僕の心配をする。
「今日は、ごめんなさい。」
君が言った。
「僕は、大丈夫だよ。彼女に悪いことしたな。」
僕が、笑う。
「あなたが、元気なら、いいわ。」
僕は、希望をもってしまう。少なくとも、彼女より、僕が心配なんだ。
「また。」
僕は、二枚の伝票を、手に取って立った。
「気を付けてね。」
君の笑顔。
「君もね。」
「うん、彼が、迎えに来るから。大丈夫よ。」
君の笑顔。僕だけのものではない。
「じゃ。」
僕は、軽く手を振って。その場を離れた。
君の不幸せは、嫌だ。
僕の、幸せは、どうだろう。
「君が好きだ。」
と、言えたら。
どうなるなだろう。
君は、僕から離れていく。僕は、いい人でさえ無くなる。
君が、気が付かないうちに、恋はしているよ。嘘をついてしまった。隠してしまった。逃げてしまった。
「お待たせ。」
「大丈夫。行こう。」
君が、誰かと、行ってしまう。
僕は、案外、今、幸せだ。
誰かが不幸せか、どうかは、わからない。
僕は、誰かのことなんて、考えていない。
僕は、変わっていない。のかな。
僕は、この片想いを楽しもう。
誰かの、不幸せを願うことより。
「またね。」
と、僕は、影から、小声で言った。
終わり