悪魔は神に誓う
何者かにはなれないけれど、僕は悪魔ではない。
俺は魔界で悪魔として生まれたけれど、実際はそんな素質もなかった。だから人間界で人間の容姿に化けて、人間を装いながら魔界では素質のない自分を慰める為に、悪魔としての優越感を得ていたんだ。そして数年は経っただろうか。
「やっぱり素質なんてなかったな」
夜に紛れて公園でタバコを吸う。
こんなふうに気取ってみたり、人に嫌がらせをしたり、人間が築き上げた世間的の矢で人を殺したりした。
『今はどうだ?』
魔界にいた自分にそう問いかけられている。
人の優しさに触れて、人の皮を被って、世間に甘えて、人間の世界で悪さをする為に、悪さをさせてもらう為にここにいる。
結局のところ、俺は本物の悪魔になんてなれないんだ。
土俵を下げて、目先の優越感に浸る為に逃げて来たこの世界。
寧ろ、この俺すらも甘やかす世界を、俺は好きになってはいないだろうか。
どこかの人間が言っていた。
「自分を好きになれる居場所が有ればそれで良い」
そんな言葉を今になって思い出してしまっているけれど、悪魔である俺からしてみれば、その言葉は苦しいだけ。
まるで、俺のことを悪魔だと見抜いているかのようだった。
もしそうなら、悪魔であるこの俺を苦しめているあのどこかの人間は、悪魔の素質を持っている奴なのだろうか。少なくとも俺よりは。
「悪魔の素質を持つ人間…」
この人間界にはそんなものは要らないと言うのに、人間という生き物は悪魔にでも救世主になったり他人をそうさせようとする。まるで神にでもなるつもりだろうか。
『お前は何者だ?』
また俺に問われている。
悪魔になりきれないなら人間になりたかった。
だけど、俺は人間にもなれない。だったら救世主にでもなるつもりなのだろうか。悪魔の俺が真逆の存在になろうと何を抜かしてもなれる訳もない。それは人間界に来て十分理解した。
だったら、悪魔にも人間にも救世主にもなれないなら俺は一体何者だろうか。
「中途半端な俺自身が今いられるこの場所が一番お似合いか」
そうやって、何者にもなれない理由を考えたくない為に、言い訳をすることは、悪魔か人間か救世主の内のどれかだろうか。
それも神なら裁いてくれるだろうか。
いや、こんなにも悩んでいる悪魔がここにいるのに、助けてもくれない神なら、最初から信じない方がマシだ。
だったら、俺が神にでもなればいい話だろう。
何者にもなれない俺がこんな悩みを、今に完結させる為にすることは一つ。
タバコを捨てて。
真っ暗に包まれる夜に、悪魔として生まれた俺が築き上げた大きな翼で、人間に化けたままのその身体を包見込む。
こんな瞬間。
「俺は神に誓える」
こんな俺が一番好きなんだ。
形が無い言葉で世界を描いたって所詮は世間体で、僕が今目で見ている世界の邪魔者。
笑う君に描いた僕の言葉も邪魔者だろうか。