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UQ ( アーカム・クエスト )  作者: 心桜 鶉
5.風前の灯火
31/40

31.収穫

 エレベーターが9階へ向かう間、椚田の頭の中はある秘密裏に進められているプロジェクトについての情報で埋め尽くされていた。椚田はスペランツァLtdの常務取締役であると同時に、世界を揺るがすことを目論む組織の一員であり、特に「あの方」の指示の下、AI技術を用いた完全自律型アンドロイドの開発プロジェクトの責任者でもあった。しかし、そのプロジェクトはAI操作の難易度と実用化のための具体的なデータが不足していたことで開発が難航していた。

 また同時にスペランツァLtdの業績も芳しく、良いとは言えない状況だった。スペランツァLtdは多事業部門を展開しているが、スペランツァLtdが特に宇宙開発部門において国内トップクラスの技術力を保有しており、その一部が村雲財団から資金援助を受けていることによるものだった。

 そのため、彼は旭川博士の研究所――バイオフロンティア社への潜入を田中に指示していた。旭川博士が開発している創薬は主力である宇宙開発部門の業績をさらに伸ばす可能性を秘めていたからだ。

 田中のバイオフロンティア社での活動を通じて、椚田は興味深い情報を手に入れた。それは旭川博士の娘が不運な事故の後、再び歩けるようになったという情報だった。それは恐らく旭川博士の開発した新薬が効果を発揮したのだろう。

 その情報が真実であれば、スペランツァLtdの宇宙開発部門のさらなる発展につなげられ、安定した業績を伸ばすことができる可能性があった 。

 しかし、調査を進めるにあたって椚田は驚くような事実を手に入れた。それは、旭川博士の開発した新薬などではなかった。彼の研究施設の地下ではフルダイブ技術による遠隔で人の意思で動かすフルダイブ型ブレインマシン・アンドロイドの開発が極秘に行われていたのだ。

 この世にはまだ無い革新的な技術であり、それはまさに「あの方」が望む、AI技術を用いた完全自律型アンドロイドの開発プロジェクトを進めるにあたり、重要なピースとなるものに違いなかった。

 田中はこのプロジェクトの一員ではないが、旭川博士の研究を覗いてしまっている。博士が新薬を開発してた、と思っているが油断はできない。この情報は絶対に外部に漏れてはならない秘密であったが、その秘密が保持できるかどうかはこれからの田中自身にかかっていた。

 椚田は田中に情報を外部に漏らさぬよう、釘を刺したが「あの方」は田中を好意的に見ていた。


「彼はこのプロジェクトに欠かせない良い歯車となる」と。そして田中に2つのことを命じた。バイオフロンティア社の地下への侵入とデータの奪取だった。




◇ ◆ ◇ ◆


 あの方と椚田の指示に従い、データの奪取に成功した田中はこれを報告するため、常務である椚田に連絡を取った。


「椚田さん、データの収集は無事終わりました」


 田中にとって今回命じられた任務は正直、成功するか分からなかった。なぜなら対象は二人いたからだった。二人いるという情報は独自の調査をする中で判明したことだった。

 そのうち一人には逃げられたが、もう一人のデータの奪取には成功することができた。大手柄だろう。

 電話の向こうで、椚田は何も言わず、ひとしきり静寂が流れた。


「よくやった、田中。だが、それだけではまだ足りない」


 重々しくそう告げられ、田中は一瞬だけ息を飲んだ。一人分のデータでは不十分だということか。――あの小娘を逃すんじゃなかった。田中は後悔した。


「まだ1つの機体があるはずだ。それも回収しなさい」


 田中は一瞬、その言葉にはっとなったがすぐに、ああ、それはつまり――と理解した。数時間前に詩絵が川に落とされ、今も川底に眠っているあの機体のことだ。あれからずっと川周辺を監視班に見張らせている。

 指示を仰いでから川底の調査をできるよう、すでに準備を進めていた。


「了解しました。早速、回収に向かいます」


 電話を切ると、田中はただちに潜水チームへ連絡を取った。川は海に近いこともあり、水深がある。流されている可能性もあるので広範囲を調査する必要がある。

 ――必ず見つけ出してやる。

 田中は一人意気込んでいた。

 


 一方、椚田は通話を終えてからしばらく、静かに部屋の中を見渡した。難儀していた計画がここまで進んできたことに、彼はひとまず安堵の息をついた。だがすぐに思い出した。あの方が忠告していたことを。


「椚田、加野詩絵に注意しろ」


 詩絵はヒナと同様あの機体を操作していた本人であるため相応の知識を有しているということ、彼女の行動は計画を阻害する可能性があるということ。椚田はその言葉を頭の中で何度も繰り返した。

 田中からも、詩絵についての報告はあった。ヒナに見限られ、彼女は今、喪失感に苛まれている、と。

 だが、それは彼女が危険でなくなった証拠にはならない。もし再び立ち上がった場合、危機感から生まれる行動力、それこそが計画を狂わせる可能性を孕んでいる。


注意しなければ――。


 椚田は深く息を吸った。

 

 

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