12-5
「……それで、どうしてここに連れてくるワケ?」
「……いや、そんなつもりは無かったんだが」
騒いでも迷惑がかからない場所……俺が思いついたのはカラオケボックスだった。
ここなら周りの目も気にせず思い切り言い合いが出来るだろうと思ったのだ。
まさかそのカラオケボックスで、直樹がバイトしているなんて思いもしなかったが。
「お前……バイトしてたんだな」
「社会勉強と小遣い稼ぎの為にね。親の世話になるなんて御免だし。……それより、後ろの2人は何なの?」
直樹は相変わらず言い争いをしている2人に目をやりながら言う。
「……僕の気持ちを知っておきながらあの2人に会わせるなんて、喧嘩売ってるとしか思えないんだけど」
直樹は俺にしか聞こえないように小声で囁いたが、そんなことしなくても2人には聞こえていないと思う。今はお互いしか見えていないと思うから。……悪い意味でな。
「違う。別に狙った訳じゃない。お前がここでバイトしてるなんて知らなかった」
そこはちゃんと否定しておく。
俺は直樹の犬飼に対する気持ちを一応知っている訳で。それで2人の痴話喧嘩を見せる為に連れて来たとかサイコパス以外の何者でもない。
「まあ、そうだと思うけど。知った上で連れて来るとか正気の沙汰とか思えないしね」
「……悪い。コイツらには思いっきりぶつからせた方が解決するかと思って。それには周りを気にせず声を出せる場所が必要だったんだ」
直樹は俺の弁明を聴きながらパソコンで何かを操作していた。どうやら部屋を取ってくれているらしい。
まあ、私怨で俺達を追い出すとか出来ないもんな。
「それでカラオケボックス……ね。悪くない判断だと思うよ」
直樹は呆れたようにため息をつきながら部屋番号が書かれた紙を渡してくれた。
「今かなり空いてるから。思いっきり喧嘩させてやって」
「助かる。ほら、行くぞ」
俺は未だにギャーギャー騒いでいる犬飼と鮫島を引きずるようにして、部屋に連れて行くのであった……。




