11-9
「美し過ぎる殺人鬼……?」
何だよそれ。聞いたことないぞ。
「ああ。コサキはこちらに転校して来たばかりで知らないのだな」
「……ってことは、この辺の奴らは皆知ってるような話ってことか?」
「うむ。というよりは、富士見学園で噂になっている都市伝説であるな」
都市伝説?
俺は思わず眉を顰めてしまったが、そういえば都市伝説については直樹にも聞かせて貰ったことがある。人を操れる日記だとか何とか。
その話もだいぶ夢物語のようなものだったが……今度は《美し過ぎる殺人鬼》だと?
まあ確かに都市伝説といえば都市伝説らしいタイトル(?)ではあるが。
「真っ赤な瞳にギザギザの歯。伸ばしっぱなしでボサボサになっている長髪。羽織にジーパン、そして下駄というおかしな格好だが……顔はかなり美形な男だと聞いたことがあるのだよ」
「それが《美し過ぎる殺人鬼》の特徴か?」
確かに、一致はしている。
そんなにまじまじと顔を眺めたことはなく、美形かどうかまでは分からないがそれ以外は今言われた特徴と完璧に一致していた。
「名は《シシバレイイチロウ》というらしい。字はこう書くのだよ」
そう言いながら山田はスマホのメモに漢字を打ち込んでくれた。
神々廻黎一郎。
《美し過ぎる殺人鬼》……か。
「……なあ、殺人鬼ってことは。コイツは何か事件を起こしたのか?殺人関連の。それなら何で捕まってないんだ」
「……そこまでは分からぬ。何の事件を起こしたのか、どうして自由に外を出歩けているのかも……な。分かっているのは名前と2つ名、容姿のみなのだ。だから我も実在はしない、架空の人物……ただの都市伝説に過ぎないと思ってはいたのだが……」
その都市伝説と完璧に特徴が一致する人物が目の前に現れたので戸惑っている……と。そういうことだろうな。
しかし面白おかしく2つ名が広まっただけで、実際はそれほど大層なことをしていないのかもしれない……と思いたかったが、俺はさっき首を絞めて殺されかけている。
それに奴はパトカーの音に怯えていた。何らかの罪を犯した人物には間違いないだろう。
「本当に人を殺した奴は、血の匂いがするモンさ─────」
前に会った時に神々廻の口から出た言葉を今になって思い出す。
やっぱりアイツは、人を殺しているからあんなことを言ったのか?
《美し過ぎる殺人鬼》……アイツはいったい、何をしたんだ?
そして、どうして少女……レナのことを探しているんだ?
「……コサキ?」
心配そうな山田の声で我に返る。
また、長考して周りが見えなくなってしまっていたようだ。
「悪い。今日はもう帰る。考えたいことがあるんだ」
「う、うむ……一人で大丈夫なのか?またアイツが襲って来たら……」
「その時はパトカーの音鳴らして何とかするさ」
山田はまだ心配そうな目でこちらを見ていたが、それを振り切って俺は寮の方向へと歩き始めた。
……さて、今日は考えることが山程ありそうだ。
少し頭痛を覚えたが、俺は軽く息を吐き出し、長考する覚悟を決める。
外はもう、雨で濡れた地面が乾いてしまう程、晴れていた……。
第十二話に続く……




