11-7
「レナ……」
先程お嬢に言われた言葉が何度も反復する。幾ら歩いても考えは纏まりそうになかった。
そして俺の悪い癖。長考すると周りが見えなくなること。
俺は背後から近づく下駄の音に全く気づかなかった。
「よォ、コサキ」
「……!?お、お前は……!」
突然肩を叩かれ、心臓が飛び上がる程に驚いてしまう。
声の主はあのホームレスだった。そういえばコイツとも久々に会う気がする。
「何だァ。考え事でもしてたのか?」
「まあ、少し」
「少しか。その割に俺があれだけ近づいても気づかなかったようだがなァ」
……それは、どれだけ接近されていたのだろうか。
というか、寮に到着するまでに声をかけられて良かった。今のところ害は無いとは言えどもホームレスに自分の住居がバレてしまうのはいい気はしない。
「そういえばチビで全身真っ白な女は見つかったか?」
「……あ」
そういえばそんなことを聞かれていたような気もする。
ホームレスの言うことだし、そもそも今の俺にはやるべきことが沢山あったので、正直なところ忘れていた。
「その顔は、今の今まで忘れてた……ってトコロかァ?」
「む……悪い。でも俺にだってやることが沢山あったんだ。それにそんな特徴的な女、見たら絶対忘れないに決まって──────」
───────いるじゃないか、そんな女。
つい先程会ったばかりだ。小さくて真っ白な……アルビノの少女。
しかし彼女には「自分と出会ったことは誰にも言うな」と口止めされている。それはこの男とて同じことだろう。
まさかとは思うが、お嬢はこのホームレスの男から逃げる為に身を隠しているんじゃないか?
だって明らかにおかしいだろ。こんな奴があんな少女と知り合いだなんて有り得ない。
そうだ。アルビノの少女は高く売れるとかそんな話を聞いたことがある。
コイツはそれを狙っているんじゃないだろうか。
「……コサキィ。テメェ、知ってるなァ?」
そして俺はまたやらかしてしまう。
長考すると周りが見えなくなる……と先程自己分析したばかりだというのに。
「いや、知らな……」
「嘘吐くんじゃねェよ」
慌てて否定したがもう遅かった。
気づいた時には男は既に眼前まで迫っており、そのまま俺は首を掴まれてしまう。
「ぐっ……!」
「なァ、コサキよォ」
「……っ!」
「俺ァ手荒な真似はしたくねェ」
……そんなの嘘だろ。現に手荒な真似をしている癖に。
「知ってるだろ?なら正直に首を縦に振りやがれ」
……ここで首を横に振ったら、間違いなくこのまま首を絞め殺されるだろう。
だけどお嬢には決して誰にも言うなと言われた。お嬢だって先程初めて会ったばかりだが、目の前のホームレスとアルビノの少女……どちらを信じるかなんて明白だろう。
それにコイツがマトモな奴だったとしたらこんなやり方で俺を詰める訳が無い。
後ろめたいことがあるからこそ、こうやって俺を殺しかけて無理矢理吐かせようとしている。
でも、だけど。
お嬢のことだって良く知っている訳じゃない。
この男が悪い奴だと分かったところで、よく知らない少女の為に命を失うなんてそんな虚しいことは無い。
もう、良いだろ。
言うなって言われたけどそれを守ってやる義理なんて俺には無い。そもそもあっちが勝手に俺の前に姿を現したんだ。
死ぬより約束を破る方が何倍もマシだ。
首を縦に振るだけで良い。それだけで俺は助かるんだ……!




