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「そのノートがあれば、零士先輩と鮫島先輩の仲も元に戻せるのかな……って」
「は?」
思わぬ言葉に、つい変な返事をしてしまった。
俺はてっきり直樹と犬飼の関係を書き換えて、自分が犬飼を手に入れたいと言い出すものかと……。
何だよコイツ。良い奴か。
「何?なんか僕、変なこと言った?」
「いや、別に」
俺の返答が気に食わなかったのか直樹はこちらを睨みつけてくる。
「お前良い奴だな」と付け足そうと思ったが、照れ隠しにキレてきそうなので止めておいた。
「……でさ、そのノートなんだけど。《アリカの名を持つ者が在り処を知る》んだってさ」
真面目な顔でギャグみたいなことを言うもんだから、俺は思わず吹き出してしまう。
「ちょ、何で笑うの!?」
「いや何だよそれ。ただのダジャレじゃねえか」
「ぼ、僕だってそう思ったよ!でも都市伝説ではそうやって伝わってるんだって!」
慌てて直樹は取り繕うが、そんなダジャレみたいな都市伝説を真面目に信じていたのかと思うと、ちょっと面白いな。
「もう!で、この話はまだ続きがあるの!そのアリカの名を持つ者はね、ある日突然この世界に現れて、何事も無かったかのようにこの世界に馴染んでるんだって!まるで自分がこの世界の住人であるかのようにさ!」
笑いの止まらない俺に直樹は半分怒った様子で話を続けてくる。
まあ良い。俺も訳の分からない都市伝説は嫌いじゃないからな。付き合ってやることにしよう。
「ねえ、ここまで言ってアンタまだ気づいてないワケ?うちの部活にいるでしょ、アリカの名を持つ者!」
「はあ?こんな身近にそんな奴……」
……いるじゃないか。楪 有翔が。
「……いやいや、アリカなんて名前……普通に存在するだろ。たまたまだって」
「それだけじゃない。あの人、一年前にふらっとここに現れて、急に学校の人気者になっちゃった」
有翔も転校生だったのか。
でも転校生が人気者になるのは、普通にあるだろ。皆珍しいものには声をかけたがるだろうし。
「別にそれだけでおかしいなんて思わないだろ。転校生は人気になりがちだ」
「あーもう!そうじゃなくってさ!ちゃんと聞いてよ!」
直樹は明らかにイライラした様子で頭をかき、そして告げる。
「それだけじゃない!皆、あの人が昔からここにいたように振る舞い始めてるんだよ!おかしいでしょ!?転校生なのに!」




