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暫く3人で無言で作業をしていたが、静寂の教室に突如着信音が鳴り響く。
「ワリィ、俺だ。もしもし?……はあ?美波が熱出したって!?」
美波とは誰だろうか。鮫島の女か?
いやでも先程鮫島は犬飼に好意を抱いていることが分かった筈。
「美波ちゃんは、大河の妹さんだよ」
俺の表情から察したのか、犬飼が小声でこっそりと教えてくれた。
「悪い、古。妹が熱出しちまって、すぐに帰らないといけなくなった」
「分かった。後は俺と犬飼でやっとくから、帰ってやれ」
家族が熱を出したなら仕方ない。
だが、別に鮫島を責める訳では無いが……他に家族は居ないのだろうか。親御さんとか。親戚とか。
「……こさきっち。後で教えてあげるから、今は黙って見送ってあげて」
「あ、ああ……」
俺はどうやらすぐに顔に出てしまうらしい。自分でもクールで、あまり表情に出ない性格だと思っていたのだが。
それとも、犬飼が物凄く察しのいい男なのだろうか。……こんなチャラ男が?
でもコイツはモテるって聞いた。女といつでもデート出来るということは、実際にモテるのだろう。
そして恐らくモテる男は……察しがいい。
まあ、こんな話は今はどうでもいい訳で。
俺と犬飼は申し訳なさそうにしている鮫島を見送った。
「2人きりだね、こさきっち♡」
「気持ち悪いぞ」
「ひっどーい!」
遅刻してきたコイツに対して気を遣うつもりも無いので塩対応をしてやることにする。
「で、お前と鮫島の関係は?」
「やだー、いきなりそこ聞いちゃう?まさかこさきっちって俺狙い?」
「天地がひっくり返っても有り得ないから安心しろ」
「えー、こさきっちったら冷たぁい♡」
バッサリと切り捨ててやったが、全く落ち込んでも無さそうな様子で犬飼は返してきた。
「冗談はさておき……俺と大河は幼なじみなんだぜ!」
「まあ、それは何となく察してはいたが」
2人のやり取りからここ最近からの付き合いでは無いのだろうなということは察することが出来た。
「幼稚園の頃からの友達だったんだよな〜。ちっちゃい頃の俺はすっげー泣き虫でさあ。よく大河に助けて貰ってたんだよ」
信じられない。
そんな幼い頃からの付き合いだということも驚いたが、それよりもコイツが泣き虫だったという事実に俺は驚かされた。
「ずっとずっと仲良しだと思ってた。家族ぐるみで仲良かったし。大河の弟と妹達も俺に懐いてくれててさー。あ、アイツんち弟と妹が4人居るんだよ。だから大河も面倒見ないと家事が回らないんだって」
ああ。帰らなきゃいけないってのはそういうことだったのか。納得した。
「だけどさ、中学に上がった頃くらいからかな。突然俺のこと避けるようになって。俺もずっと大河に頼ってきたから、俺のことウザくなっちゃったのかなって」
あまりに真面目な話に、普段からお前はウザ絡みしてくるけどな、とは流石に茶化すことは出来なかった。




