8-5
ガンッ!!
鮫島の拳は犬飼ではなく、机に振り下ろされた。
「俺がテメェの為にどれだけ……」
吐き捨てるように鮫島は言った。
「……クソ。何でもねえよ……」
しかし、それは言うつもりの無かった言葉だったのだろう。
でも自然と口から零れてしまったその言葉は、鮫島の弱音のように聞こえた。
「……そっか。俺の心配してくれたんだ。俺のこと嫌いになった訳じゃなかったんだ……」
その言葉を聞いた後、犬飼も何か小声で呟いたようだったが、その言葉は鮫島にも俺にも届かなかった。
「ん?何か言ったか?」
だが何か言ったのであろうことは分かったので、俺は敢えて触れてみる。もしかしたら謝罪の言葉かもしれない。
だったら鮫島に伝わらないと意味が無いし、このまま部員同士の関係が悪いのは困る。形だけではあるが、俺は一応部長なのだ。
「……頼んでないよ」
しかしそれに対する犬飼の返事は、冷たいものだった。
「……!だからさっきのは何でもねえって言って……!!」
「俺はお前に何かしてくれなんて頼んでない。お前が勝手にやってることで、俺に責任を押し付けるのやめて欲しいんだけど」
……は?
流石に今の言い草には俺の方がキレてしまった。
「何だよそれ。鮫島は……」
「……もう良い!」
反論しようとする俺を、鮫島が制する。
その姿に流石に罪悪感を覚えたのか犬飼は頭を下げてきた。
「……遅れて来たのは、ごめん。続きからちゃんと手伝うから」
「……おう。助かる」
そのまま犬飼と鮫島は着席して、黙々と作業を始める。
俺はやり場のない怒りと言いようのない気まずさを抱えたまま、作業を再開することにした。
……悪い、会長。
調査どころか会話出来そうも無いぞ、これは……。




