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「見て見て!野球部なんかいいんじゃない!?」
「……いや、どう考えても俺らはそれ方面の見た目じゃないだろ……」
そもそも運動系は遠慮したい。どうしても部活に入れと言うならば文化系一択だ。
楪は楽しそうなのに、と口を尖らせた。というかお前は女子だからマネージャーだろ。
「なあ、お前らって2年だろ。何で今更部活見学なんかしてるんだよ」
「あ、そっか。こさきっちは知らねえよな。アリちゃんってかなり凄くてさ。色んな部活のピンチヒッターとして大活躍してたんだよ。だからアリちゃん独り占め禁止みたいな暗黙の了解が出来ちゃって、何処にも所属出来なかったんだよなあ」
「そ、そんなことないよぉ!ただどの部活も楽しそうだったから、なかなか決められなくて……」
成程。俺の手を引いた時の力の強さといい、こいつは只者じゃないらしい。
「で、俺は部活とかめんどくさかったから!」
「そうか、よく分かった」
「でもなんか今年からどうしてもって理由が無ければなるべく部活には所属しましょうって感じになってさ、どうせならこさきっちと同じ部活に入ろうかなって!」
「そうか、丁重にお断りする」
「ぼくもぼくも!サキと一緒ならたのしそー!」
……いや、俺は転校してきたばかりだろ。お前ら俺のこと何も知らないじゃないか。
まあ転校生ってだけで注目を浴びたり構われたりするのはある程度は仕方のないことなのだろうが、それにしたってこいつらは俺に期待し過ぎではないだろうか。
「で、結局どの部活にしちゃう!?」
楪が目を輝かせて尋ねてきたが、正直言って面倒くさい。
何とか家の用事があるとか言って拒否出来ないだろうか。……いや、俺に家族がいないことはバレているからその言い訳は使えないか。
「俺は何でもいーぜ!楽しそうな部活だったら!」
そうか。ならお前が絶対に苦手そうな英語研究会とかにしてやろうか。
それはそれで俺も苦痛だが。
「あのね、ぼく実は気になってる部活があって────」
「見つけたぞ!転校生クン!」
楪の声は突然の大声によって掻き消された。
何処から聞こえてきたんだと辺りを見渡すと……声の主はサッカーゴールの上に座っている。いや、どんなとこに座ってるんだ。
「とうっ!」
声の主は掛け声と共にサッカーゴールの上から飛び降り、こちらに駆け寄って来た。……他人の振りをしたい。
「あ!ハルくん会長だー!おーい!」
楪は知り合いらしく手を振っている。
出来れば俺は関わりたくない。
「……は?会長?」
「おう!あの人この学校の生徒会長なんだぜ!」
……あんな変人が生徒会長なんて世も末だな。
「やあやあ転校生クン!今部活を探しているよね?いるんだよね!?」
関わり合いになりたくなかったが、生徒会長はガッツリと俺の手を掴んできた。
「いや、別に」
「そんなキミに朗報さ!何と今年結成したばかりの部活があってね!今入ればキミは部長になれるのさ!どうだい?転校生がいきなり部長だよ!ロマンだろう!?」
「別に興味無いです。それじゃ」
俺はすぐにその場から離れようとしたが、ガッツリと手を掴まれているせいで全く動けなかった。
何だこの人。小柄な癖に強過ぎるだろ。
「というかアンタが作ったならアンタが部長じゃないんですか」
「それはね……私が会長だからさ!」
全くもって意味が分からない。
「部長と会長だったら会長の方が偉いだろう?だったら部長は誰かに任せてしまいたくてね!」
「そうですか。でも俺は入りません」
「まあまあまあまあ!話だけでも聞いていきたまえよ!」
会長はずい、と顔を近付けてくる。今すぐこの場から立ち去りたい。
「……って、楪は?」
「アリちゃん?さっきジュース買いに行くって言ってたぜ!」
くそ。面倒なのを押し付けて逃げやがった。
というか犬、お前も何とかしろ。笑ってんじゃねえ。