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「……凄かったな」
「当たり前です。姉さんですから」
演奏が終わった後も、暫く興奮が収まらなかった。
音楽に興味なんて無かった。いや、記憶を失ってから何に対しても興味を持てなかった。
楪の演奏は、そんな冷え切った俺の心を溶かしてくれたかのようだった。
「あ!サキ!ひかちゃん!」
控え室で着替え終わった楪がこちらに向かって走ってくる。
俺は俺らしくないと思いながらも、早く楪に会いたくて、俺からも彼女の元へと走った。
「凄かった、アリカの演奏。特に最後の曲。痺れるかと思った」
「ふえ!?あ、ありがと……!」
「あれ何て曲?知りたい」
「え、えっとね。あれはオリジナルなの」
「マジか。CD売ってる?」
「あっ、うん!幾つか持って来てるよ」
俺の口が、まるで俺じゃないように言葉を紡ぐ。それくらい興奮したし、感動した。
とにかくこの気持ちを、誰かに伝えたくて仕方なかったのだ。
「……だっ!?」
しかしそんな俺に水を差すかの如く、蹴りを入れてくる源氏。
「な、何しやがる……」
「アンタこそ何しやがってるんですか。どさくさに紛れて姉さんのことを名前呼びして」
「……!?い、いやこれは違う!その、アーティスト名で呼んだだけだ!」
自分でも気づいていなかった。興奮し過ぎだ。
今更ながら恥ずかしくなってきて、俺は何も言えなくなってしまう。
「……良いよ?」
暫く黙った後、楪が言った。
「えっ?良いって、何が」
「有翔って呼んでくれても、良いよ」
「え、ええっ!?」
まさかの本人から許可を得てしまった。源氏の視線が痛い。痛過ぎる。
しかしここで「いややっぱり苗字で呼ぶ」とか言えないだろ、普通。
「……あ、有翔……」
長い沈黙の後、俺は絞り出したような声で楪……有翔を呼んだ。
「なあに?サキ」
彼女はそれに、笑顔で応えてくれた。
そしてその後、源氏からの本気の蹴りが入ったのは、言うまでもない。




