6-5
「……耳が痛え」
演奏だけではなく、周りの歓声も、これほどまでに大きいものだと思わなかった。
音楽に興味が無さすぎて、曲も何一つ知らないものばかりで。
……だけど、不思議と嫌な感じはしなかった。一応、楽しめているということだろうか。
「おい、疲れてないか」
「大丈夫です。もしかしてもうへばったんですか」
俺よりも体力が無さそうな源氏は何故だか平気そうだ。クソ、ムカつく。
平気どころか寧ろキラキラしているように見える、目が。
「こういうの好きなのか、お前」
「えっ……まあ、憧れはしましたけど。昔の話ですよ」
「ふーん……」
何となくコイツは音痴というか声が出ないイメージがあったが、お前に歌なんて歌えるのかよ、とはあえて言わなかった。
流石に人の夢を貶す程無粋では無い。
「歌わないのか?」
「えっ……」
「楪、ギター出来るんだろ。楪の演奏で歌ってみれば良いじゃないか」
「……歌えませんよ。姉さんの演奏は完璧で、俺なんかが隣に立てるものじゃありません。それにただ憧れているだけで、本気で目指している訳じゃ……」
一瞬、源氏の表情が曇ったのを見逃さなかった。
「お前……」
「あっ、次がラストですよ。姉さんが出ます」
しかしそれを聞く前にその話は打ち切られてしまう。
というか、楪は大トリだったのか。
「楪が歌うのか?」
「違いますよ、姉さんはギターだけです。……音痴ですから」
「……音痴なのか」
そうこう話しているうちに大トリのバンドメンバーたちが現れる。
先程まで騒がしかったライブハウスが、彼女らがステージに上がった途端、シン……と静かになった。
俺も思わず息を飲む。
そんな中、楪がマイクを手に取り息を吸い込み……
「みんなーっ!!身体、あったまってるー!?!?」
大声で、叫んだ。
「「アリカーーーーーーーー!!!!」」
その声に応えるかのように、観客が楪の名前を叫ぶ。……あの源氏まで。
何だよお前そんな大声出せるのかよと突っ込む余裕も無かった。
そのまま演奏が始まり、俺の心はガッツリと掴まれてしまったからだ。
初めてのライブハウスで、俺は初めて『心が震える』ことを覚えた……。




