6-4
そして現在、俺と源氏は何故かライブハウスの中で並んで立っている。ドリンク片手に。
「……おい、これはどういうことだ。俺はお前とデートしに来た訳じゃないんだが?」
「俺だってそんなのお断りですよ。……今日は、姉さんのライブを見に来たんです。姉さんはガールズバンドのギター担当なんですよ」
本来なら俺一人で来るつもりでしたけど、と源氏が付け足す。
成程。デートと言いながら、チケットノルマを達成する為に俺は呼ばれたということか。……別に、期待なんてしていなかったが。
というかガールズバンド……?楪は男じゃなかったか……?
いや、周りは楪を女として扱っているし、そこを突っ込むのは野暮というものか。
「サキ!ひかちゃん!どう?楽しめそう?」
衣装に着替えた楪がこちらに駆け寄ってくる。
こうして見ると女にしか見えないな。可愛いし。……いや、俺は何を思っているんだ。
「楽しむも何もまだ始まってないだろ」
「雰囲気からバッチリ楽しんでいます!姉さん!」
それは、絶対に嘘だ。
どう見ても陰キャなコイツにライブハウスの陽キャ的雰囲気が楽しめる訳がない。
……まあ、かくいう俺もこういう雰囲気はあまり得意では無い。
「それよりリハーサルとかあるんじゃないのか。こっち来てても大丈夫かよ」
「はう。だって心配だったんだもん。……特にひかちゃんが」
「弟が?アイツは自分からついてきたんだろ?」
「今まで、ひかちゃんがこういうところに来たがったことって無かったの。ぼくもひかちゃんがこういう雰囲気の場所が苦手なのは分かってたから、無理には誘わなかったんだけど……今回はどうしてもついてくって言うから、大丈夫かなって」
……おい。アイツはそんなに俺と楪を2人きりにしたくなかったのか。
それともまた別の理由が……?
「アリカ!リハ始まるよ!」
「あっ!うん!ごめんね、サキ。また後で!」
「お、おう……」
そうこうしているうちに、楪はバンドメンバーらしき女子に呼ばれてしまった。
どうしていいか分からず、ぼーっとしている俺に源氏の蹴りが炸裂する。
「……おい。手も足も出すなって言われてただろ」
「今は姉さんに見られていないのでセーフです」
何だその理論……。
ただでさえこういう雰囲気は苦手だと言うのに、コイツと2人で楽しめるものだろうか。
「……あれ。そういやチケット代払ってないぞ」
当たり前のことに今更気づく。
俺のその問いかけに「何を言っているんだ」と言いたげな表情で源氏が応える。
「当たり前じゃないですか。姉さんがそんなの要求するほど器が小さい人だと思ったんですか?」
「いや、だってチケットノルマ達成の為に誘われたんだろ……?」
「ノルマはとっくに達成しています。姉さんって、ここらでは人気なんですよ。だから別にアンタを呼ばなくても関係無かったんですけど……姉さんがどうしてもアンタに見て欲しいって、自分でチケット代出してアンタを呼んだんですよ」
源氏の言葉に、思わず表情が緩んでしまったらしい。奴は分かりやすく俺を睨みつける。
「……勘違いしないでください。姉さんは、アンタが転校生だから気を遣って誘ってくれただけですから。別にアンタに気があるとかじゃないですからね」
「……はいはい」
ツンデレかよ。
しかも自分のことじゃなくて、姉のことだし。
まあ、それを聞いたことで気分は良くなった。
ライブハウスなんて生まれて初めて来た訳で、この空気にも馴染めそうにないと思っていたが、今日は楽しめそうだ。




