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「あのねェ、犬飼くん」
「ん?どうしたんだ、ユガミ先生!」
「何度も授業中はお静かにって言ってるでしょうが。後、先生には敬語を使いなよ」
放課後、俺は担任に職員室へと呼び出された訳だが、そこには既に先客がいた。
そいつは俺に気づいて手を振ってくる。やめろ、お前には出来れば関わりたくない。
「こさきっちー!どしたん?こさきっちも何か怒られるようなことしたのか?」
「転校早々俺が何をしでかすって言うんだ」
「犬飼くんじゃないんだから、そんなことは有り得ません。えっと、神凪くんだっけ?とりあえずこっちにおいで」
担任に手招きされ、俺は職員室に入室する。
「神凪くん、まだ何の部活に入るか決まってないよねェ。校内の案内も込めて部活見学をして貰おうと思って」
……部活か。正直面倒くさい。
所属しなくて良いのなら、帰宅部になる気で居たのだが……。
「……というかこいつはいつまで居る気なんですか」
「ああ。部活の件だけど、犬飼くんも何処にも所属してないからねェ。良かったら一緒に……」
「こいつと同じ部活とか無理です」
俺は即答する。
「えー!?良いじゃん!」
「まあまあ。一緒の部活じゃなくてもいいから、部活見学を一緒にして欲しいって言いたかったんだよ」
正直それだけでも不満だったが、俺一人ではまだ学校の構造を把握しきれていない。不服だがこいつに頼るしかないのか。
「あー!サキみつけた!それにれーくんも!」
「おー!アリちゃんじゃーん!アリちゃんもユガミ先生から呼び出し?」
「違うよぉ。ぼくはサキを探してたの」
こいつは流石に覚えてる。ここに来た時に(一応)世話になった楪だ。
というか、お前が古とかいう名前を付けたくせに早速略するのか。だったら「サキ」でも良かったじゃないか。
「サキ、まだ学校のことよく分からないでしょ?だから案内してあげた方がいいかなあって!」
「あ、いや。そのことだが今……」
……いや、待て。このチャラ犬に案内されるよりは、楪に案内される方がマシではないだろうか。
「先生。楪に案内して貰って良いですか」
「ああ。そういえば楪さんも部活には入ってなかったか。それに、神凪くんだって可愛い子に案内された方が嬉しいもんねェ」
別にそういう下心から楪を選んだ訳では無いのだが。面倒くさいのでわざわざ否定はしない。
「ちょっ、こさきっち!俺では不満だってーの!?」
「寧ろ不満しかない」
「ひっでえ!」
キャンキャン騒ぐ犬を放置し、楪と職員室を後にする。しかし、楪は足を止めた。
「……ねえ、れーくんも連れてってあげようよ。可哀想だよ」
その言葉にここぞとばかりに犬も賛同してくる。
「そーだよそーだよ!可哀想だって!俺が!」
「別にお前が可哀想だろうがどうでもいい」
「そんなこと言わないで。みんなで一緒の方が楽しいよ♪」
……結局、楪(と馬鹿)の押しに負け、俺達は三人で部活見学に向かうのであった。