5-2
「……アンタが鮫島大河なんだ」
「俺はテメェなんざ知らねーぞ」
「そうだろうね。僕も名前くらいしか知らなかったし」
犬飼と鮫島だけでなく、直樹と鮫島にも何か因縁がありそうだ。
正直、俺は興味無いし触れる気も無いんだ。でもここまで匂わせをしておいて何も触れない訳にはいかないだろ。話の流れ的に。
「……そんな興味無いけど、知り合いか?」
「神凪先輩、本音が出てるよ」
「直樹くん、私も気になるな!部員の関係について把握しておかないとね!会長として!」
いや、アンタは絶対興味本位で聞きたいだけだろ……。
「零士先輩とは、知り合いだよ。そっちの人は名前しか知らなかった。悪い印象しかなかったけどね」
「あ?何だテメェ……」
「将吾ちゃん、やめて……!大河は、そんな悪い奴じゃ……」
「うるせえぞ、犬飼。テメェに俺の何が分かる」
「それ、は……」
犬飼が俯いて黙ってしまい、物凄く気まずい空気が流れる。
「……はっ。コイツが居るって知ってたら、こんな部活……絶対入らなかった」
鮫島は犬飼を睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「ちょっと!そんな言い方無いでしょ!?」
「会長、悪いが俺は抜けさせて貰うぜ。コイツと同じ空気を吸うなんて御免だからな」
「……!!だから何で零士先輩にそんな厳しい訳!?つーか、僕だってアンタと一緒に居るなんて嫌だし!!勝手に辞めれば!?」
いや、鮫島も部員だったのか。紹介しろよ会長。
まあ紹介する前に揉め事が起きたから仕方ないか……。そもそも鮫島は辞めるとか言ってるし。
「えー、鮫島くん。残念だなあ……。辞めちゃうのかい」
相変わらず笑顔を張りつけ、ちっとも残念じゃ無さそうに会長が口を挟む。
鮫島は機嫌が悪いのも隠そうともせず、会長に吐き捨てる。
「サーセン、コイツと一緒に居るのだけは無理なんで」
「……そうかい。なら私との契約も無かったことになるね」
……会長がそう言った瞬間、この場の温度が下がったような気がした。
顔は笑っているのに、声が笑っていない。
「私としては先生に告げ口みたいなことはしたくなかったんだけど……君が契約を破棄するんだから仕方ないよね」
会長は立ち上がり、扉に手をかけた。
何処かに行くつもりなのだろうか。というか、告げ口って一体。
「私は生徒会長だから、責任をもって先生に報告させて貰うよ」
「……!!待っ……てください」
鮫島が絞り出したような声で、出て行こうとする会長を制止する。
「どうしたんだい、鮫島くん」
「その、辞めるってのナシにするんで、だから……」
「本当かい!?なら良かった!」
鮫島の言葉に会長は本当の意味でにっこりと笑ってみせた。
「さあさあ!ならこんな辛気臭い話は止めて!作業の続きに戻ろうじゃないか!」
そう言えば、まだドブ掃除は終わっていない。
まだ不穏な空気が流れたままであるが、俺達は会長に言われるがまま全員元の作業場に戻ることになった。
「……クソ。こんなのヤクザの脅しじゃねーかよ……」
……戻る前に、鮫島がぼやいた言葉は、聞かなかったことにした。




